ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーにはじまり、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、そして近年ブームのアドラーまで、脳科学的なアプローチも加味し、心理哲学的な関心について綴っています。

トンレン

昨日、関わっている小児がん医療団体の学習会があり、患児の親たちと会議をもちました。そして、以前から頭の隅に引っかかていたトンレンという瞑想を思い出しました。
以下、ケンウィルバーの「グレース&グリッド(下)」p44より引用。
小乗の教えは個人の悟りに重点を置き、大乗の教えはさらに一歩進んであらゆる存在の悟りを重視する。・・・ヴィパッサナーによってしっかりした土台を築いた後、修行者はこのトンレンの修行に移る。・・・自分がよく知っていたり、愛情を抱いている人の中で、病や損失、絶望や苦痛、不安や恐れといった苦しみを体験している人のことを瞑想中に観想する、あるいは思い浮かべる。息を吸う際、彼らの苦しみのすべてを、真っ黒で、煙やタールのような、どんよりした雲のような存在として想像し、それが鼻腔を通って自分の胸の奥まで入っていくのを想像する。そしてその苦しみを自分の胸の奥に保っている。次に息を吐き出すときには自分の中のやすらぎ、自由、健康、善や徳といったものすべてを、人を癒し解放する光というイメージにして、その知人に送るように想像する。この呼吸を数回繰り返す。(引き続き引用)・・・初めてこの修行を教えられた人たちは、普通、本能的な強い拒否反応を示す。ぼく(ケンウィルバー)もそうだった。黒いタールを自分の中に取り込むだって?冗談じゃない。それで本当に病気になったらどうするんだ?正気の沙汰じゃない・・・トンレンの訓練をある程度続けていると、不思議なことが起こりはじめる。まず、誰も病気にはかからない。・・・むしろトンレンを修行していると自分のものだろうと他人のものだろうと、苦しみに直面したとき、尻込みするということがなくなる。苦痛から逃げ回るのをやめ、それをただ喜んで自分の中に引き受け、そして開放することによって、苦しみを変容させることができる・・・。(引用ここまで)
 昨日、10名余りの親たちは、誰かその一人が発言している時、その話に耳を傾けながら心の中ではトンレンをしていたのではないでしょうか?もちろんトンレンなどという方法を、おそらく誰も知っているとは思えませんが。こうした会議ではいつも、なんとも言えない苦しみと、そして共感と暖かさを感じます。黒いタールを想像するまでもなく、聞くだけで自分も思い当たるつらい心情を共にしながら、うなずいて聞くその瞳から癒しの光を皆が放っているように感じます。