ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーを中心に、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、アドラー、ポジティブ心理学など、複雑系や脳科学的なアプローチも加味し、「生命の躍動」の探求、心理哲学的な関心について綴っています。

統合的な医療

私がケンウィルバーの著作ではじめに読んだのは「万物の歴史」でした。ホロンに関連した「20の原則」と「4象限」に「すごい!」と思いました。
4象限とは、左と右を内面と外面に、上と下を個的と集合的の4領域にきったマトリックスです。すなわち左上が「内面的・個的」左下が「内面的・集合的」、右上が「外面的・個的」右下が「外面的・集合的」をあらわします。
ウィルバーの「万物の理論」では、この統合的アプローチを用いて「統合的な医学」について記述されています。(以下抜粋)正統的ないし慣習的な医学は、古典的な右上象限のアプローチである。・・・しかしホロニックなモデルは、あらゆるフィジカルな出来事(右上)には少なくとも4つの側面があり、したがってたとえフィジカルな病気であっても、四つの象限すべてから見なければならない、・・・身体的な病気であっても、その人の内面の状態(情動、心理的な態度、想像および意志の強さ)が原因と治癒の両方に決定的な役割を演じる・・・左上象限がカギになる要因だということである。・・・しかし同様に重要なのは・・・文化(左下)が病気をどう見るか−思いやりや同情をもってか、あざけりや軽蔑をもってか−は個人がどう対処するか(左上)に深刻な影響を与えうるし、身体的な病気そのもの(右上)がたどるコースに直接影響を及ぼす。・・・右下象限は、・・・実は−他の象限と同じく−病気と治療の両方の原因となる。・・・右下の象限には経済、保険、社会的な分配システム、・・・が含まれている。(抜粋ここまで)私の関わる小児がん患者(家族)サポートNPOでは「医療学習」という右下に位置づけられるシステムを提供し始めました。目的は本来的なインフォームドコンセントの成立、医師と患者のコミュニケーションの促進、患者家族のコミュニティ構築などです。効果は上がり始めているようです。この右下の「医療学習」は左下に影響し、医師との相互理解の促進に役立っています。また小児脳腫瘍の領域で多くの患者同士の結びつきを誘発しました。このことが左上の心理状態によい影響を与えています。納得して治療に向えるようになった親の声も聞かれます。
いくつかの例では直接右上(治癒)によい影響を与えました。「治療の選択肢が広がった」ということです。今後は心理学や病弱教育学、臨床死生学の専門家を交え、より統合的なアプローチを志向していくものと想像しています。