ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーを中心に、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、アドラー、ポジティブ心理学など、複雑系や脳科学的なアプローチも加味し、「生命の躍動」の探求、心理哲学的な関心について綴っています。

Meditation Practiceその1 呼吸瞑想

ILPのスピリット・モジュールではMeditation Practicesとして5つの瞑想が紹介されています。そこではまず以下の書き出しから始まり、簡単に5つの瞑想が示された後、各々の瞑想が詳しく示されています。今回はその書き出しの部分とすべての瞑想の基礎ともいえる「呼吸瞑想」について紹介したいと思います。(p236~抜粋拙訳)

瞑想には多くの方法があります。西欧では、最も広く実践されている瞑想の形態は超越瞑想(TM)、マインドフルネス瞑想、坐禅、そしてloving-kindness瞑想です。TMは古代のヒンズー・ベーダの実践に由来し、マントラを使います(ここに紹介するI AM:マントラ瞑想に類似して)。・・・

1.基礎的呼吸瞑想 
これは瞑想実践の純粋性と明晰性を楽しみながらも、集中力をつける方法です。
2.The I AMマントラ瞑想 
この金星実践(gold star practice)は、TMや他のマントラの背景にある古代の原理を利用しており、完全に統合的な文脈において初心者から上級実践者まで誰にでも適しています。
3.Integral Inquiry(無形の気づきformless awareness)
この金星実践は、継続して注意を無形の気づきに解放します。それは実践のいくつかの段階を提供するので、誰にとっても適したものとなります。同様に1分間モジュールもあります。
4.The 3 Face of Spirit(有形の瞑想meditation with form)
これは3つの金星実践で、統合意識との深遠な関係に基づいています:私たちはSpiritを黙想し、Spiritと交流し、そしてSpiritとして目覚めます。The 3 Face of Spiritはシンプルな沈黙瞑想、視覚化のいくつかの部分、そして1分間モジュールによって演じられます。
5.Compassionate Exchange(有形の瞑想)
この金星実践においては、あなたは自己を全世界に対する犠牲的な奉仕に視覚化します。すべての呼吸を通して、究極的には自己と他者の間の区別さえ無分別の中に(in non-separation)消滅します。これも1分間モジュールがあります。

Basic Breath Meditation Instructions
1.背骨(spine)を直立して静かに坐り、自然に呼吸します。
2.現前する瞬間に注意を向け、静かに呼吸を数えます。呼吸を数え始めましょう。最初の吸気は「1」として、呼気は「2」として、その後を続けて。
a.「1」を数える間に、吸います。
b.「2」で、吐きます。
c.「3」で、吸います。そのあと続けて。
3.「10」まで数え終わったら、もう一度やり直します。
4.吸気と呼気の間で、心を安らげましょう。それぞれの呼吸の間の静寂に特別な注意を払いましょう。
5.あなたの心がさまよう時はいつでも、「one」に戻って呼吸を数えるのを続けます。魅力のある、そして徐々にですが挑戦的な基準を定めましょう。それはあなたの選択です。
a. あなたは、数を見失ったときだけ「one」に戻ることがでます。
b.もしあなたが並行作業に適応しているのに気づいたなら(それは白昼夢を見ながら数えることができる、など)、 あなたはより厳格な基準を設定したいと思うかも知れません。思考があなたの注意と呼吸から前景(foreground)を支配し、カウントと現前する瞬間が背景(background)になったときにはいつでも「one」にもどるという基準を。
c. どんな思考が起こったときでも、たとえそれがカウントからあなたを妨げなかったとしても、あなたは「one」に戻ることができます。

Breath Meditation is Always Right Now (呼吸瞑想は常に、ただ今。)
各々の呼吸とカウントは注意を・・・に戻します。何に?
 現前する瞬間―今、です。この実践は、あなたの現前する瞬間との関係を涵養することに依存します。完全に、意識的に、現在に在るとは何か(what is it to be)?どのように「今ここに在る」のか(How do you “be here now”)?
 すべての新しい呼吸とともに、あなたは現前する瞬間に開かれた新鮮な機会に出会います。すべての現前する瞬間の中で、あなたは、在るとは何か(what is to be)、そして内面の空間と自然に起こるくつろぎの拡張を楽しむこと、を意識的に認めます。
あなたは数えますが、各々の呼吸と、各々の数は(必要な)情報(date)ではありません。それは、この生きている現前する瞬間の名称、思い出させる合図(reminder)なのです。数はドライでも、障害でも、死んでも、そして機械的でも、ないのです。
 各々の数を、この無限に生きている「今」の名称として―すべての喜びと深さのある、そしてSpiritと神聖さが見つかる―考えましょう。
 その無限の深い現前する瞬間において、気づきはくつろぎ、開くことができます。やがてそれは深遠に開く傾向ができるでしょう。それはますます出会い、親密に引き合わされるでしょう。豊かな輪郭、質感、そして継続した踊りの無限の深さ、すでに変化する現前する体験によって。楽しみと感覚が鍵となります。あなたは実践しながら、何が、瞑想すること、呼吸を数えることを楽しんでいるのか、に気づきましょう。そして何が実践を気の抜けた義務にしてしまうのかに気づきましょう。

Your Mind Will Wander. Not a problem!
あなたが、瞑想中に思考の中で見失ったと気づくとき、注意を呼吸に戻し、そして吸気とともに「one」を数えます。
 さまようことは避けられない、瞑想プロセスの自然な部分であり、「間違って」いませんし、問題でもありません。あなたが実践を続けるとき、あなたの焦点を合わせる能力は上達します。これは良いことでより深い実践を可能にします。しかし、心の状態は常に変化します。すべての人は彼らの焦点を合わせる能力が満ち欠けする局面を通過していきます。注意がさまようことは、問題でも瞑想の障害でもありません。
 忘れないで下さい:自己叱責と内面の葛藤は、注意の彷徨よりももっと瞑想のプロセスを妨害します。内面の批判の真ん中に自分自身を見つけるとき、それを縮小させる最善の方法は、優しく受容すること、そしてそれからシンプルに実践に戻ることです。
 あなたの注意が彷徨っていることを理解したなら、瞑想しようというあなたの意図を誉め、あなたの実践に注意を戻しましょう。そうです。彷徨は完全にOKです。事実、それも全部が瞑想なのです。固執(persistence)は卑下すべきものではなく、高尚で賢明なのです。「one」に戻りなさい;呼吸に戻りなさい;無限に、神秘に、いきいきとした現前する瞬間の奇跡的な深さに、戻りなさい。(拙訳ここまで)


私が瞑想をはじめたのはもう20年以上前ですがTM瞑想を習ったことがきっかけでした。ビートルズもインドで学んだというこのTM瞑想はマントラを使うので、2番目の「The I AMマントラ瞑想」と類似しているというのは興味深いです。これは以前に原文のまま途中まで取り上げたことのある例のI AMnessの瞑想です。これは次回にもう一度、詳しく書く予定です。

呼吸瞑想は、「メンタルな焦点化(focus)とオープンな気づきを結合したもの」で、「集中は心が焦点をあて、安定するのを鍛え、その間オープンな開けが、くつろぎ、広がり、そしてこのメンタルな焦点を、すべての現前する瞬間との自由な遭遇へと、解放する」とあり、それは「無形と形に基づく瞑想のタイプの間の境界に」位置し、「集中力を定着させるのに役立つとともに、ここ(here)と今(now)、に接した心の広がりへと明け渡す能力を涵養する」というように紹介されています。

はじめは数字のoneの訳を「1」としてすべて訳していたのですが、後半は明らかに「one」と表現した方がよいと分かったので変更しました。

印象深いのは「吸気と呼気の間で、心を安らげましょう。それぞれの呼吸の間の静寂(stillness)に特別な注意を払いましょう。」という部分です。私は呼気が先にあるという感じで瞑想するので、呼気のあと(吸気の前)にstillnessを感じとることを心掛けてきました。呼気―stillness―吸気です。しかし呼気―stillness―吸気―stillness―呼気という感じでこれからやってみようと思います。

もう一点、分かりやすいなと思ったところがありました。
「思考があなたの注意と呼吸から前景(foreground)を支配し、カウントと現前する瞬間が背景(background)になったとき」という文です。呼吸に注意を向け、カウントをすることで意識は現前する瞬間(present moment)にあります。それが望ましい状態、それがpresent momentが前景にあるという状態です。しかし心が彷徨い、思考が前景を支配するとき、present momentは背景に移行してしまうのです。日常の私たちは普通このような意識構造で生活しています。思考―前景、present moment―背景です。

しかし前景と背景を入れ替えて過ごす時間が大切です。present moment―前景、思考―背景を維持すべきなのです。パソコンで図形を二つ重ねるとどちらかが上(前景)に、もう一つが下(背景)になりますが、present momentが前景にくるように図形の「順序」をクリックして「最前面へ移動」させるということでしょう。それでもいつのまにか「順序」は入れ替わり、present momentは背景に回ってしまいますが、その時は気づいてpresent momentの「順序」を「最前面へ移動」させればよいのです。