ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーを中心に、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、アドラー、ポジティブ心理学など、複雑系や脳科学的なアプローチも加味し、「生命の躍動」の探求、心理哲学的な関心について綴っています。

3-2-1 Shadow Process+目撃者

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ウィルバーのIntegral Life Practiceのコア・モジュールの1つであるシャドウ・モジュールを読み終えました。読み応え、十分!という感触です。
前半は、影の説明と3-2-1 Shadow Processを使ったシャドウ・ワークが、3つの具体例を織り交ぜながら解説されていました。私も実践する中で、自分がマズローの第4段階欲求をやや抑圧していたことに気付きました。
 後半は、これぞILPの真骨頂!というところを見せてもらいました。それが今回書きたい、『3-2-1 Shadow Process+目撃者』です。これははっきり言って、すごいです。読んでいて、「そう来たか」「さすがやね〜」「これはほんま、すごいわ」などと、何回も感じました。

まず、最初にすごいと思った、Transmuting Your Authentic Primary Emotionという節から引用してポイントを紹介したいと思います。

シャドウ・ワークは重要ですが、それはしばしば私たちの感情的な生活を明晰にするための最初のステップにすぎません。一度、あなたがシャドウ・ワークを実施したなら、あなたはもはや二次的で非本来的な感情の中の迷子ではなく、当初の本来的な感情のエネルギーを創造的に取り戻し、利用する機会を得ます。(専門的にいえば、これは本当の「シャドウ・ワーク」ではなく、感情を伴う実践において非常に多くの場合、次の適切なステップといえます)
あなたの当初の本来的な感情の生のエネルギーは、あなたの存在の原初的なエネルギーの表現です。それのすべてはあなたの全体性にとって不可欠で必要なものです。もし、あなたの感情が、怒り、恐れ、あるいは悲嘆のような明らかに「否定的な」ものなら、それはあなたの有効性を妨害するか、あるいはあなたの心とハートを毒するだけのように見えるかもしれません。そんな感情は除外される必要があると考えるのが普通です。しかしながらこれは、現実的な選択ではありません。否定的な感情を「取り除こう(get rid)」とする努力はそれらを影にしやすいだけです。それは最初のところで見た問題です!もっと実のあるアプローチは、これらの感情を、純粋で本質的な、発現(expression)と解放(release)のエネルギーへと変換することです。
このシンプルな5段階のアプローチが、否定的な感情を変換する伝統的なスピリチュアル実践のエッセンスを伝えます。

1. あなたが感じているもの、これがどのようにあなたの身体に現れるか、肉体的とエネルギー的の両面で、気付きましょう。
2. 判定する、抑える、さもなければ、それに反抗する傾向を緩和しましょう。そしてそれをありのままにしておくだけにし(just allow it to be what it is)、気づきの意識で抱擁しましょう。
3. もしあなたの感情が、誰かあるいは何かについてのものなら、その対象との関係を緩和しましょう。感情のエネルギーをそこに置いておきましょう。あなたの中でそれが生起していること(「彼女が私にこのように感じさせるのだ」のように、あなたに対して起こるというよりむしろ)に気付きましょう。
4. あなたの感情と状況あるいはそれが生起している人間関係のエネルギーを感じましょう。呼吸し、感情のエネルギーを流れさせましょう。破壊的というよりむしろ建設的にそれがどのように取って代われるかに気付きましょう。数回の呼吸をし、どのように感情が導かれ、循環するように変化するのか気付きましょう。
5. あなたが感情の移ろい行く性質を認識するまで注意を払い、水が沸騰して水蒸気になるように、自由で障害のないポジティブな発現(表出)として、その生のエネルギーを自己解放させましょう。

このプロセスのエッセンスは感情の受容(acceptance)と許容(allowance)であり、それを取り巻く緊張と抵抗を緩和することです。それから感情が姿を現すのに任せます(let the emotion itself)。それが、解放された、障害のない、あるいは目覚めた生のエネルギーの表出へとベールを脱ぐのを見守ります(let it reveal)。
例えば、怒りの変換を考えましょう。怒りの背後には大きなエネルギーが存在します。もしそれが、純粋で、本来的なエッセンスへと解放されたなら、一体どうなるでしょうか?しばしばそれは、混乱を明晰へと切り開くために、識別し、透徹するエネルギーとして、そして決意として、それ自体のベールを脱ぎます。時としてそれは、変化されるべきものを変革する、エネルギーであり意志です。怒りのような感情的なエネルギーは消滅する必要はありません;実際それは、慈悲と自由に尽くすための(in service of compassion and freedom)、価値ある源泉なのです。(引用拙訳ここまで)


否定的な感情を取り除こう(get rid)とすると、それを影にするだけだということ。そしてそうではなく、「これらの感情を、純粋で本質的なエネルギーへと変換する」ことができるということです。これは、以前に取り上げた「Statesをmanage」する、もう一つの方法とも言えるものです。
ここで気をつけないといけないのは、この実践が対象とする否定的な感情とは影が投影されたことの症候として感じる二次的な感情ではないということです。最初に抑圧しようとした一次的な本来の感情の方なのです。映画「青い鳥」でいうと、野口君の机を村内先生がクラスに戻した後に、園部君が感じた不快感や憤り(これは二次的な感情)ではなく、野口君が悲しそうな目をして自分を見たときから感じていた罪悪感(これが一次的な感情)の方を対象とした実践です。
これはほぼ一年前に「One tasteに入るには」の記事で取り上げた、ウィルバーが「一如(One Taste)の世界がもっとも前面に出やすい状態である」とする「目撃者」と同じでしょう。

そしてこの目撃者の実践(一次的な感情を変換する)を、シャドウ・ワーク(二次的な症候を一次的な感情に戻す)と組み合わせます。これを簡潔に書いたのが次の文です。

Shadow Work with Transmuting Emotions
感情を変換するシャドウ・ワーク

フロイト心理療法的プロセスの有名な要約の一つは「それがあったところ、そこに私はなる(Where It was, there I shall become)」でした。同じように、シャドウ・ワークと感情変換のために:

 What was “it” becomes “I.”
 それであったものは、私になる。   

What was “I” becomes “mine.”
 私であったものは、私のものになる。

and is witnessed by I AM.
 そしてI AMによって、目撃される。

Thus, its energy is reclaimed and liberated.
こうして、そのエネルギーは取り戻され、解放される。



そしてこれは次のように解説されています。

感情の変換をシャドウ・ワークと組み合わせる方法:

シャドウ・ワークのプロセスにおいて、「それ」(it)であったもの、「あなた」(you)であったもの、は否認されていた「私」(I)の部分であることが理解される。
・ 感情変換のプロセスにおいて、これらの「私」(I)の次元はI AMによって目撃される。
・ そのプロセスにおいて、それらは解き放たれ、もはや同一化しない。あなたの感情があなたをもつ代わりに、あなたがそれらをもつ。「私」(I)を形成する代わりに、それらは「私のもの」(mine)になる。(引用拙訳ここまで)




いかがでしょうか?It→You→Iが、3人称→2人称→1人称という3-2-1のプロセスでしたが、この次のステップにI AMという「目撃者」の状態が付加されました。このプロセスによってその否定的な感情はI→mineとなり、以前のIはその感情に拘束され、振り回されていたのですが、このmine化のシフトにより、その否定的な感情は私の中にはあるが、もはや私を脅かすものではなくなるということなのです。

どう感じましたか?私は声を出して、これぞIntegral!!と拍手してしまいました。フロイトヴェーダーンタの統合です。どちらかだけでは片手落ちです。両方がセットになってはじめて完璧なのです。
この章の終盤には、あといくつかの魅力的なことが書かれています。それを吟味して次回もう一度シャドウ・モジュールを取り上げたいと思います。こんなことなら、もっと早くこの章を読めばよかったと思いましたが、しかしながら他のコア・モジュールをあらまし理解したからこそ、より一層迫力を感じることができたとも思います。やはり堂々とシャドウ・モジュールは欠くことのできないコア・モジュールの一つであったのでした。