ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーにはじまり、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、アドラーなど、複雑系や脳科学的なアプローチも加味し、心理哲学的な関心について綴っています。

インテグラルとは「苦悩を乗り越えるのに役立つ知の体系」

玄侑宗久さんの現代語訳「般若心経」を読んでいて、観音さまは自分(の身体と心)というものがすべて「空」であることを見抜いて一切の苦厄から救われたのだという

照見五蘊皆空 度一切苦厄。

この解説をスタートとして、この数週間でいろいろなイメージが広がりました。

そして分かったことは、インテグラル理論は「苦悩を乗り越えるのに役立つ知の体系」の現代版であるということです。以下のように自分なりにまとめてみました。

レベル(段階)
ある発達段階で現れている苦悩は、次のレベルでは客体化された一つの対象として見ることができる。現在よりもひとつ上の価値観を身につけることで苦悩を乗り越え、やがてはどのような価値観とも同一化しないことによって苦悩を乗り越えてゆくことができる。

タイプ
生じている苦悩を自分のタイプの分析に照合してみることで、自分が無意識に取ってしまいがちな傾向を自覚することができ、苦悩が生じたメカニズムとそれを乗り越える方向性を見出すことができる。

ライン
多重知性の各発達ラインを相対的に並べたサイコグラフをイメージして苦悩と発達ラインとの関係を内省したのち、特定の発達ラインを伸ばすことによって苦悩を乗り越える能力を高めることができる。

ステート(状態)
状態とは一時的なものであることを知る。さらに「状況はコントロールできなくとも状態はコントロールできる」との観点に立ち、意識の状態を管理する訓練を積むことによって苦悩を乗り越えるスキルを身につけることができる。

クオドラント(四象限)
自らが直面している苦悩を四つの象限、すなわち四つの視点から捉えてみる。直面する苦悩がそれぞれのレンズを通してどのように位置づけられるのかを整理し、各象限の相互関係を洞察することで、苦悩を乗り越えることができる。

そして分かったことがもうひとつあります。

それは、これら苦悩と克服の具体例を、私であれば、「小児がんの領域」において編集していくのだということです。

先に述べたインテグラル理論と実践で「苦悩を乗り越える」こと、これらを分かりやすく他者に説明するには具体例がセットされていることが必要です。ですからインテグラル理論の骨格に、「よくみられる苦悩」と「克服した具体例」を体系的に編集していくのです。それは、レベル別の具体例、タイプ別の具体例、いくつかのラインの具体例、状態に関する具体例、象限を使った具体例、およびそれらを組み合わせた具体例です。

その具体例がピンと来るものであるためには、その業界の業界用語で表現されていることが大切です。業界というのがビジネス的であるならば分野といってもいいでしょう。

すでにインテグラル・エコロジーインテグラル・エデュケーションなど環境や教育の分野での著書も出版されていますが、もっと細分化された「里山保全」や「病弱教育」という「分野ごと」に知の体系が編集されていけば、すばらしいと思います。

この仕事はとりもなおさず、NPOの仕事の領域です。

難病、虐待、依存症、ネットカフェ難民ニートうつ病自閉症、シングルマザー、がん、認知症、…

これらは、私が発表を聞いたり、審査に関わったり、コンサルをしたりしたことのあるNPOたちが活動している領域ですが、彼らは自身の領域でこうした「苦悩を乗り越える知の体系」を編集していけばいいのです。

断片的には行われているでしょう。かなりレベルの高いNPOもあるかも知れません。

しかしもっと統合的、体系的にそうした知識を編纂したいのであれば、きっとインテグラル理論は大きく役立つはずです。

さまざまなNPOが苦悩を乗り越える知の体系を、インテグラル理論を骨格として編纂し、実践を促し、活動を展開していく。そんな日はそれほど遠くないような気がしています。