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ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーにはじまり、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、そして近年ブームのアドラーまで、脳科学的なアプローチも加味し、心理哲学的な関心について綴っています。

四象限で現状分析し、四視座でsolutionを評価する

先月下旬に発売された「インテグラル理論入門Ⅱ」(春秋社)には、従来の四象限に加えて四視座(quadrivia)が取り上げられています。四象限も四視座も座標のクロスする中心に円が描かれており、四象限では人の顔が、四視座では事象がその円に入って描かれています。解説を読んで、これは使える!と思いました。NPOの経営にとてもうまく使えるのです。

この四象限では象限の中心に人(犬でもいいのでしょうが主観領域をもつ個体ホロン)が入ります。この場合、その人が自身の内面を見るのが左上象限、自身の外面を見るのが右上象限、その人の「私たち」の内面を見るのが左下象限、その人の置かれている外部環境を見るのが右下象限です。
わたしはこの四象限をNPOの経営に活かすなら、そのNPOの支援対象者を象限の中心において彼の現状と問題点を分析するのに使えば効果的だと思います。

それに対して四視座では中心に事象が入ります。そしてその事象を四つの側面から見るということになります。こちらはNPOの経営に利用するなら、支援対象者の解決策やプログラムを中心において、それを4つの角度から評価すればいいのではないでしょうか?
すなわち左上象限では支援対象者の内面からsolutionであるそのプログラムを評価し、右上象限では支援対象者の外面に及ぼす変化としてその対策を評価し、左下象限では、支援対象者の「私たち」という側面からそのプログラムを評価し、右下象限では支援対象者の置かれている社会環境、制度的側面からそのsolutionを評価するというふうに使うのです。

具体例をあげましょう。小児がん患児家族を支援するNPO法人エスビューローでは、いくつかの支援対象者層が存在します。「入院中の患児」、「入院中の患児の親」、「復学後の患児サバイバー」「喪失後の親」「患児のきょうだい」などが上げられます。

それぞれの対象者層にとって彼らを取り巻くそれぞれの現状と問題点が存在します。以前にもこのブログで取り上げたことのある「復学後の患児ザバイバー」を例に考えてみましょう。

小学生で6ヵ月間に及ぶ入院治療を終えて退院し復学する患児(復学後も通院治療が継続される場合が多いためここでは患児と呼ぶ)を想定して四象限の中心におきます。

まず退院後間もないこの患児の右上象限である身体的領域は、虚弱で疲れやすい、化学療法の副作用による脱毛や満月顔、加えて脳腫瘍経験者では、視聴覚の障害、内分泌機能不全による低身長や体温調節が困難であるといった問題などがあげられます。

患児の右下象限である社会環境、制度的側面を見ると、小児慢性特定疾患の医療費補助制度(18歳未満の小児がん患者は医療費補助を受けられるが成人では対象外となってしまう)、生命保険制度(生命保険に入るのが困難)、長期フォローアップ制度、院内学級制度(入院が長期のため病院内の学級に通う)、子どもの病棟への立ち入り禁止(友人は見舞に来ても感染予防のため病棟へ入れない)などをあげることができます。

特に国内の病弱教育制度の現状では、入院中はその院内学級を運営する学校へ転籍(転校)しなければならないことから、元いた学校とのつながりが断絶しやすいという大きな課題があります。

入院中に学年が上がると、退院して戻るはずの学校に自分のクラスや席がない、ということが起こるのです。友人が見舞いに来ることのできないことも手伝って、当然クラスメイトとの関係が途切れていきます。担任と呼べる先生も元の学校にはいません。

このような問題が生じないよう、院内学級では生徒の元いた学校に働きかけ、退院した場合に所属する予定のクラスや担任の先生を決めてもらい「つながり」が断絶しないようにするところも出てきていますが、そうでない現状も多く見られます。

このような身体的現状である右上象限と、制度的現状である右下象限の影響も受けることによって、復学した生徒は左下象限においては「私たち」を感じられなくなります。あるいはうまく復学できたとしても進級や進学に伴い次第にクラスメイトや学校の友人との関係に疎外感をもつことを余儀なくされるのです。

こうして身体的な右上象限の問題と左下象限の問題が複雑に絡み合って、個人の内面である左上の象限において、抑うつ、不安、トラウマ、孤立感などの心理的課題が確認されることになります。

イメージしやすいように右上象限から解説しましたが、インテグラル理論では四点生起といって各象限は同時に生起します。どこかの象限が原因となり、どこかの象限が結果となるという見方はしません。四つの象限はそれぞれに影響し合いながら、ある時ある要因はある象限の結果に影響し、また逆の相互作用も引き起こしながらこのような状況を呈するのだと考えられます。

そして、こうした四象限の現状分析的な活用方法に加えて、ここでは「ネットでeクラス」という当団体の提供するsolutionとしてのプログラムを四視座として評価すると次のようになります。

まず「ネットでeクラス」はブロードバンドの普及という社会のインフラ環境を背景にテレビ会議システムというICT(information communication technology)を利用した右下象限に該当するsystemです。具体的には講師役の大学生と生徒、双方の顔を見ながらの個別学習を週1回と、9人がひとつの画面上に一堂に顔を合わせて行うホームルームを2週に1回実施しています。

小児がんの子どもは約1,000人に1人。同じ小学校で自分と同じ小児がんの子どもに出会うことはめったにありません。この仕組みはこうした地理的に分散している小児がんの子どもたちがネット上でつながれることを可能にしています。これは右下象限において評価されることのひとつです。

次に学校の授業についていけない子どもも個別対応をしてあげるとよく理解できることがあります。ある子どもは黒板の字が二重に見え、ある子どもは視野が狭いため、速いペースの学校の授業についていけません。しかし進むペースを合わせながらの個別学習なら対応できるのです。しかも自宅に居ながらにして学習可能です。実際に関東や愛知県の患児を大阪の大学生が教えてきましたが、全国どこにいてもブロードバンドのネット環境にアクセスできれば可能なのです。

これは右上象限の身体感覚的な機能不全を補完できていることを意味します。

そして週2回開催しているネット上のホームルームはユニークでとても楽しいものになっています。http://www.es-bureau.org/submenu/sub3-f.htm
彼らにとって学校の友人やクラスメイトとはまた違う「私たち」の関係が育まれています。小児がん経験者同士のコミュニティが形成されつつあるのです。これは左下象限での成果といえます。

「ネットでeクラス」が育む「私たち(We)」というスペース - ウィルバー哲学に思う


そして、個別学習は認知の知性ラインに働きかけますし、ホームルームは世界観や対人関係の発達ラインに影響するでしょう。不安な状態を幾分か軽減したり、「みんなも頑張っているから私も」という前向きな意欲を喚起したりすることにつながっています。これは明らかに左上象限での「ライン」や「ステート」において効果が確認されつつあることだといえるでしょう。

こうしたコミュニティの存在は以前に取り上げたPTG(ポスト・トラウマティック・グロース)を促進しやすい土壌を提供できるかもしれません。「他人と比べないようにした」という先輩サバイバーの言葉は、仲間と比べて自分を卑下し苦悩している後輩の心にきっと響くものがあるはずです。

ポスト・トラウマティック・グロース Posttraumatic Growth - ウィルバー哲学に思う


四象限で現状分析し、四視座でsolutionを評価する」、このようなNPO経営におけるインテグラル理論の活用方法、皆さんもいかがでしょうか。