ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーにはじまり、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、そして近年ブームのアドラーまで、脳科学的なアプローチも加味し、心理哲学的な関心について綴っています。

オープンフォーカスとPeak Performance

フェーミ博士のThe Open-Focus Brainを読んでいます。

今回は、第8章Peak Performanceの中の「ゴルフから、空手、フットボールまで」という節を紹介したいと思います。(以下P118〜P120より抜粋)

ゴルフから、空手、フットボールまで

手にクラブのグリップを握ると同時に、ゴルファーはアテンションでボールを捕まえる。

潜在意識的にギュッと歯を食いしばり、打ち負かそうとする多くの考えが彼らの競技を上達させるが、逆もまた真なりである。

アテンションの異なるスタイルが競技の異なる部分で必要とされる。ゴルファーは特定のプレーの局面に適したアテンションのスタイルへと動くことを習うことができる。

ラウンド前の15分から20分のオープンフォーカス実習で、筋肉は弛緩する。

ティーにボールを置き、ドライバーで打つ用意をすることは、ナローフォーカスの戦闘的な心を必要とする。

穴の位置、方向、風の強さ、フェアウェイとグリーンの湿り具合、林とバンカーの場所、そのた様々なものも同様に、査定せねばならない。

よりディフーズ/イマースドなフォーカスは、この情報を統合して、数回のスイングの実践のために筋肉を弛緩させる。

バックスイングに向けて即座にオープンフォーカスに入ることは、主要な筋肉のグループを寛がせ、充実した、流れるようなダウンスイングを容易にする。

ナローフォーカスではゴルファーのアテンションは、まったくボールだけである。

対照的に、オープンフォーカスで、プレイヤーのアテンションの中心を優しくボールに残すが、それと同時に、並行して努力のいらない、周囲のアテンションの内側に対する気づきを許す。それは芝生、木立、他の風景の特徴、そしてその中で感覚が生起するスペースなど。

芝のにおい、鳥のさえずり、クラブを握った感覚への気づきがある。

スイングする間、ゴルファーの気づきは拡散し、体験との充実した一体性へと溶け合う。―ボールをアテンションの中心に保ちながらもその間ずっと。自己の意識は消失したと多くの人がその点を報告している。

オープンフォーカス訓練はリラクゼーションだけではなく、アスリートの身体的資源を最適化する。大変大きな物理的な力を要求する出来事においてさえそうだ。

公式のspeed-and-explosionのコーチとして、休息からトップスピードまで速く加速する能力はフットボールからバスケットボール、ラケットスポーツ、トラック競技まですべてのものに不可欠であることを私は知っている。

たいていのスピードトレーニングの専門家は直接的なトレーニング戦略を使う。

ペース・ラニング、以前のトップスピードより少しだけ速く走る車と一緒に走る。

電子メトロノームの使用、選手の通常の足音の速度よりわずかに速いビートを刻む。

しかしアテンション・トレーニングはそれ自体を使うのであれ、他のアプローチと一緒に使用するのであれ、競技パフォーマンスを高めるのに決定的な役割を果たす。

私は当時ダラス・カウボーイズのコンディショニング・コーチをしていたボブ・ワードと共に働いたことがある。

彼はオープンフォーカスの数日間の集中トレーニングにプリンストンへやってきたのだ。

毎朝彼は日課のストレッチと柔軟体操をして、2時間をかけて筋肉を緩め、慢性的な背中下部と関節の痛みを楽にした。

彼のエクササイズを見たあと、その通常のコンディショニングの日課の代わりにオープンフォーカスをすることを私は彼に提案した。

20分ほど、痛みを分解するエクササイズを通して、オープンフォーカスを説明した。

それはすぐに彼の筋肉の緊張と慢性的な痛みを緩和した。

ワードは考えを改め、のちにオープンフォーカスをダラス・カウボーイズの選手とspeed-and-explosionのコーチのナショナルカン・ファレンスに紹介してほしい、と私に求めてきた。(抜粋ここまで)


ここまで読んではじめてフェーミ博士の著者紹介にある以下の文の意味が分かりました。

A certified “speed-and-explosion” specialist, Dr. Fehmi has worked with the Dallas Cowboys, the New Jersey Nets, and the Olympic Development Committee.

speed-and-explosionとはhttp://n-a-s-e.com/about-nase/introduction.htmlのことで、たしかに創立者としてBob Wardの名前も出てきます。

今回取り上げた節の次のRunning in Open Focusという節ではOlympic Development Committeeがイリノイ大学で、フェーミ博士に世界クラスの中距離と長距離ランナーの指導を求めてきたくだりが書かれてあって興味深いです。

その節からひとつ空手家の事例について書かれた部分を紹介しておきます。(以下引用)

リスター・インバー博士は、物理学者で空手の指導者であり、日本の空手協会より黒帯の4段を授けられている。ちょうど臍の下の「腹におけるフォーカスの中心」を維持することによって、ディフーズのなかに落ち着き、万遍ない構え(all-around readiness)が可能となる、と彼は私に語った。

敵が動きを起こした時、インバーは彼自身の広がったエネルギーを感じ、そしてアウェアネスが即座にそのフォーカスの中心に集中するのを感じた。広い光線がレンズを通してフォーカスするように。

彼の反射的な反応はこのセンターから発していた。

それから彼の中心化したアテンションは再び広がっていった。

インバー博士は私の管理する実験のため、EEGの線につながった。

彼がディフーズの構え(diffuse readiness)にアクセスするといつも、記録は低い周波数のα波と呼ばれる範囲で同調を示した。

彼の反応を測定するきっかけは、大きなクリックの音だった。インバーはクリックの音を聞くと毎回、スイッチを押して反応した。

彼はクリックの音を待っている間、10Hzのα波を出していた。

彼の反応が最も速くなった時、彼は何回か10Hzを出し、反応した時は20,30Hzで、(それ以外の)平均では40Hzかそれ以上であった。

それからインバーは素早く戻って用意し、アテンションをオープンにした。

これはフレキシブルなアテンションだ。

どんな一つの刺激にもナロー/オブジェクティブなフォーカスをしないことによって、インバーは彼の相手のリズム全体に意識を開いておき、意思をもって動きを実行するよりもはるかに少ない時間で自動的に反応することができた。

インバーはこれを「敵の調子の裁断(cutting his opponent’s rhythm)」と呼ぶ。

それはまるで、知覚した相手の動きをスローにし、より速い動きで反応することができるかのようである。(拙訳ここまで)


この中にでてくるall-around readinessは、以前ブログで取り上げた柳生新陰流の「無形の位」とほぼ同じようなものであるといえるでしょう。

「悪い無限」を空なる心の自由へと反転する、それは「無形の位」 - ウィルバー哲学に思う


引き続きオープンフォーカスを見ていきたいと思います。