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ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーにはじまり、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、そして近年ブームのアドラーまで、脳科学的なアプローチも加味し、心理哲学的な関心について綴っています。

小児がん・脳腫瘍全国大会はインテグラル・シンキングを促すプロジェクト

鈴木規夫氏の著書「インテグラル・シンキング」の第3章は、「知性の成長段階」について書かれています。

ハーバード大学のザッカリー・スタインの研究にもとづいて、5つの段階が示されており、たいへん興味深く読ませていただきました。

第1段階は、AQALの4象限のうちのひとつの領域で、専門性を確立する段階。

第2段階は、複数の方法論を通して世界を観察できるようになる段階(ただし同一領域内)。

これは第1段階で左上の象限において心理学分野で専門性を確立した人が、宗教や哲学、芸術、文学などの複数の専門を学ぶことを意味する、ただし同一の象限(この場合では左上象限)内で、というのが第2段階です。

わたし自身の経歴を振り返れば、「会計」という専門性を身につけ、上場企業の決算、連結決算の責任者を務めた27歳の頃が第1段階でしょう。

そしてその後、中小企業診断士となり経営の専門家(主に経営戦略)として数十社の企業のコンサルに従事してきました。

「会計」は右上象限に該当する領域であり、それにもうひとつの「経営戦略」というレンズがつけ加わったので、これが第2段階でしょう。

第3段階は、探求の対象を複数の領域(象限)にわたって広げていく段階。

心理学者(左上)が、脳生理学(右上)、生態学(右下)分野の視点を勘案するような場合が例として挙げられています。

私の場合ではワールドウォッチ研究所の「地球白書」をはじめとする環境関連の書物を読みこんで、エコロジーの視点(右下)をコンサルに取り入れ、テーマも地域開発に拡大していった30代後半がこの段階に当るのだろうと思われます。

第4段階は、複数領域の探究成果を並べるだけの相対主義的な発想を克服する段階。

この第3段階から第4段階にかけては、「しばしば、多様な知識や洞察をただ陳列するだけのものに見えるために、周囲の関係者を困惑させることにもなりかねません」と鈴木氏は書いていますが、うまく克服できないと、まさに非視点的狂気と呼ばれる混乱に陥ります。

そしてそれらがバラバラになってしまわない「普遍的な法則」を探求することがこの段階のテーマだと書かれていますが全くその通りでしょう。

私にとってはインテグラル理論との出会いによってこそ、その移行をなんとか成し遂げられたのではないかと感じています。

この第4段階では、多様な関係者が自らの洞察や技術や能力を発揮しながら貢献することのできる新たな文脈や枠組みを構築することが志向される、と書かれており、

そうした能力を鍛錬する最も有効な機会のひとつとして、「複数の専門家を巻き込んで実施されるプロジェクト活動に参加すること」があげられています。

ここで、私は先日の8月5日から3日間にわたって行った第4回小児がん・脳腫瘍全国大会のことが頭に浮かびました。

この大会はまさにこの第4段階を鍛錬する機会であるということができます。

もともと4年前の第1回の大会の時から4象限のすべての領域を意識して構成を企画してきましたが、特に今回はそれが際立っていたと考えられます。

まず、「ポスト・トラウマティック・グロースを考える」という3時間のプログラムは、左上象限に対応しています。この分野の専門である長崎ウェスレヤン大学の開先生の誠実に心を開かれた話しぶりが患者家族にとても好評でした。

喪失家族を対象にしたビリーブメントワークショップでは、小児がんで子どもをなくされた親御さんが10名参加しました。

うち1年以内の喪失の方が5人でした。このワークショップも昨年から3回を数え、体験を共有できるコミュニティとして育ちつつあります。

また、小学生から高校生までのサバイバーが参加したサマースクールは2日間にわたって行われました。

一緒に作って食べる、語り合う、みんなで歌う、という体験を通じて「私たち」を実感してもらうという狙いでしたが、かなり手応えがあったように感じています。

喪失家族ワークショップとサバイバーのサマースクール、これら二つのプログラムは、左下象限に当てはまります。

大会3日目に行われた小児脳腫瘍フォーラムは、髄芽腫や胚細胞腫といった疾患別の講座と、緩和ケア、小児がんワクチンといったテーマ別の講座で構成され、それぞれの小児がん専門医が最先端の話をしました。

これらは、病気と治療のことを学ぶ右上象限の領域に該当したプログラムです。

そして私が今回のプログラムのなかで最も力を入れたというか、プレッシャーが大きかった(自分の発表があるということで)のが、

厚生労働省、第3次対がん総合戦略研究タウンミーティング」という位置づけで行われた『みんなで考えよう!これからの小児医療』と題したシンポジウムです。

ここでは実際に「がん対策推進基本計画」に盛り込まれることにつながる要望を2つの患者団体から発表する場が与えられました。

一昨年の第2回大会で小児がん拠点病院を整備していくことについて討論が行われ、今回はその続編となりました。

私は「オランダ病」から「オランダの奇跡」と呼ばれまでの変化を引き起こしたいわゆる「オランダモデル」を引き合いに出し、病弱で就職困難なサバイバーでも正規雇用への道が開けるような「病弱手帳」の制度化を提案しました。

これらは、まさに医療や福祉の制度改革をうったえる右下象限のプログラムであるといえます。

そしてこれら4つの象限で行われたプログラムはすべて「医療者と患者側の相互理解の促進」と「患児・家族のQOLの向上」という当団体のミッションの実現に向けられています。

「小児がん患児家族のQOLを向上するためには・・・」という文脈で、4つの異なる専門領域で実施されたメニューが統合されるのです。

しかも、それぞれの領域は相互に関係しあっています。

喪失家族やサバイバーのコミュニティを構築すること(左下)はポスト・トラウマティック・グロース(左上)を促進しやすくするでしょう。

小児がん拠点病院を集約化すること(右下)は、希少疾患においても高いレベルの診断と治療を実現すること(右上)につながります。

またそのように社会資源を集約することで、病棟心理士(左上)や、担当となってくれるソーシャルワーカー(右下)も配備しやすくなり、

闘病仲間のコミュニティも涵養される(左下)ことによって、結果として患児家族の不安はいくらか軽減される(左上)ことになるのです。


長々と書いてしまいました。「知性の成長段階」の第5段階についてのコメントはまたの機会に譲りたいと思います。

小児がん・脳腫瘍全国大会というプロジェクトに参加することは、インテグラル・シンキングでいうところの知性の第4段階を促しうるのではないでしょうか。