ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーを中心に、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、アドラー、ポジティブ心理学など、複雑系や脳科学的なアプローチも加味し、「生命の躍動」の探求、心理哲学的な関心について綴っています。

ネガティブな感覚をオープンフォーカスのreminderとして利用する

以前に「ネガティブな感覚を気づきのサインとして役立てる」ことについて書いたことがありましたが、今回の内容はそれに通じるところがあり、「ネガティブな感覚をオープンフォーカスのreminderとして利用する」というタイトルにしました。

フェーミ博士のOpen Focus Brainの第6章Dissolving Emotional Painのなかに、Working with Depressionという節があり、以下はそのP84からの拙訳です。

トニーのケースでは緊張と不安が大変しばしば同居していたので、後者が存在している時、私は通常まず不安を分解することによって抑うつを処置することから始める。

私の見解では、不安と抑うつは、しばしば同じ複雑な問題の(異なる)部分(あるいは側面)である。


私が扱う大抵の抑うつは、不安の気分をコントロールし減らそうとする、あるいは体内の感じを反射的に否定し回避しようとする無意識の企ての結果である。

不安が分解するとき、抑うつによって不安をコントロールする必要も消え去る。そして抑うつはそれ自体で浮上し、オープンフォーカスの実習を使うことで容易に分解される。

どんなケースでも抑うつの感覚に対する抵抗は、直接に抑うつそれ自体の感覚と一緒に分解されうるのだ。

3つの一般的なオープンフォーカス実習のセッションの後、トニーは彼の不安を減らしはじめるため、dissolving- pain実習を紹介された。

最初のセッションの間、彼はわずか15%ほど不安の感覚を減少させることができたと報告した。それは物足りない結果だった。そしてほとんど全部の不安がすぐさまセッションのあとに戻ってきた。

トニーが自宅とオフィスのセッションを続け、相当な程度まで不安を分解できたのは6回目のセッションを経た頃だった。

私はクライアントに彼らの痛みの強さを表現すると0から10までの数字ではどれくらいかを尋ねる。

トニーは6回のセッションを経て、10段階でいうと6から0へと慢性的な背骨の痛みが解消した。右肩の慢性的な痛みは4から0となった。

次のセッションによって、彼は「幸福」を感じはじめたと言った。これは抑うつと悲しみの気分を分解しはじめる前のことである。

9回目のセッション―抑うつの感覚を分解するのに2回のセッションを費やした―で彼は100%よくなったと言った。

彼は抑うつと悲しみの感覚を分解しつづけ、そして0に減らした。

彼の人生はノーマル付近へと戻り、10回目のセッションで彼は家周りの雑仕事をしたと報告した。それは事故以来ずっとやったことがなかったことだった。

トニーの身体の痛みの多くと事故がもたらした他の症状は、私たちが不安と抑うつにフォーカスした数週間の間に回復した。

トニーのケースは、痛みに関連したナロー/オブジェクティブ・フォーカスが痛みの経験を大きく加速するありさまと、ディフーズド/イマースド・アテンションへの変化がどのように極端な苦痛でさえも楽にするかを示している。


トニーは多すぎるほどの症状への対処をはじめた。脊柱や肩甲骨の痛み、全体的に重く固まった感覚、首と頭の張り、しびれ感、背骨上部の焼けるような熱い痛み、ハートで感じる怖れ、その場面で置き去りにしたトラックドライバーへの怒り、悪夢、不眠症(夜通し目覚めていて眠りにつくことができない)、および他のネガティブな感情。

自宅での痛みを分解するテクニックの実践とオフィスでのEEG同調トレーニングのセッションによって、これらすべては鎮静し、解決した。

もし不安があるなら抑うつを治療はしやすい(不安の分解はよりたやすいので不安の抑圧である抑うつは治療しやすい)が、オープンフォーカスの実習は抑うつ、悲哀、孤独、あるいは絶望の気分を使って直接作用することができる。不安の代わりに、私たちが分解できる痛みとして。(間接的ではなくても直接分解できるよという意味)

抑うつと不安の症状は戻ってくる。それは慢性的なナロー/オブジェクティブなアテンションの懸命な形態から脱して留まることを学べるかどうかにかかっている。安定したオープンフォーカスのアテンションを涵養できるかどうかである。

このことは同様に、どれほどよく上手にオープンフォーカス実習を行うか、それを日常的に維持するかということ関係する。

抑うつと不安は、年数を経て脳と身体の両方に形成され、遺伝的体質、若齢期やその後の過酷な状況の影響下で根を張るものと考えられる。

クライアントが習慣的にナローフォーカスに戻るとき、これらの感覚は再び戻ってくる。

であるから、私はネガティブな感覚をフィードバックとして利用することを奨励する。

もし不安や抑うつを感じはじめたら、あるいは他の不快な気分が戻ってきたらこれらの体験はオープンフォーカスに戻ることを思い出すためのもの(reminder)として奉仕させることが可能だ。

それはストレス、緊張、そして不必要なその他の晴らしたい気分を許すことだ。

痛みはフィードバックになるのだ。

どこかの時点で治療に訪れるのを減らすことができるのがより効果的だ。

私たちはクライアントに、抑圧された感情の層を溶かし続けるよう指導する。彼らが感覚に開いていることを歓迎でき、自宅にいながら自分自身でそれらの感覚を分解する確信が持てるように。(引用ここまで)



この文章は6月4日にmixiに掲載したものなのですが、こちらのブログに転載するのを忘れておりました。

しかしフェーミ博士の新しい著作のタイトルがDissolving Painとなっていることからも、感情の痛みを分解するプロセスの実際を解説したこの文章は貴重であると思われます。

また今このタイミングで思い立った理由は、昨日アップしたトーレのいう「ペインボディ」に関連して、抑圧され変換された2次的な感情を、オープンフォーカスが分解する可能性を考えてみたかったからです。

そして「私たちはクライアントに、抑圧された感情の層を溶かし続けるよう指導する」という今回の記述、

そして6月17日のブログに書いた「抑圧された心の中味のドア、トラウマティックで、感情的に溜め込まれた過去の記憶のドアを開き始めるのだ」

という記述にあるようにオープン・フォーカスは抑圧され変換された2次的な感情の層を溶かし、本来の感情を露わにするとともにこれを分解していきます。

すなわちオープンフォーカスは、3-2-1シャドウ・プロセスのような役割を果たせるのです。