ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーにはじまり、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、そして近年ブームのアドラーまで、脳科学的なアプローチも加味し、心理哲学的な関心について綴っています。

灰色の男たちの罠から抜け出し、ゆっくり動こう

ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)とこのブログで取り上げた過去のテーマとの関連を見ています。今回はACTの4つ目のコアである「今この瞬間との接触」です。私がごくごく簡単にまとめたACTのまとめは次のようなものです。

 

ACTその4 今この瞬間

「今この瞬間」に触れましょう。過去のことを後悔し、未来のことを心配し、心ここにあらずの状態で時を過ごしていませんか?私たちの頭は勝手にいつの間にかしゃべりはじめてしまうものです。そうした時には「おーとっと」とそのことに気づいて「今この瞬間」へと戻ってきましょう。吸う息吐く息を意識してみましょう。呼吸は十分に深いでしょうか。眉をひそめていませんか。できれば口元に微笑みを。

 

「今この瞬間」といえば、何といってもエックハルト・トールのThe Power of Nowでしょう。これまで幾度となく取り上げてきましたが、2011年12月26日に書いた「今日一日をどういう状態で過ごすか?Presenceの持続」という小稿が私なりのまとめとなっています。http://blog.zaq.ne.jp/nagamasa/article/196/

ポイントは3つです。

まず、トールやウィルバーのいう「今」とは、過去と未来に挟まれた薄っぺらな瞬間ではなく、むしろ過去と未来を包含する永遠としての「今」であるということです。

次に、この「今この瞬間」と接触した状態というのは、鋭敏さや明晰性の感覚を伴い、行為の質を上げるものであるということです。

3つ目に、過去は記憶という思考、未来は想像という思考と密接につながっており、いつのまにか私たちは思考に囚われて、すべてが生じている貴重な瞬間である「今」から切り離されてしまう、ということです。

 

「今この瞬間」のもうひとつはマインドフルネスです。ACTではマインドフルネスをカバットジンの表現を引用して「瞬間瞬間立ち現れてくる体験に対して、今この瞬間に、判断しないで、意図的に、注意を払うことによって実現される気づき」であるとしています。マインドフルネスといえばティクナットハンです。2012年07月20日に取り上げた「マインドフルネスの日」を思い出しました。http://blog.zaq.ne.jp/nagamasa/article/234/

土曜日をマインドフルネスに日にしましょう、と書かれています。とにかくゆっくりと自分が何をやっているかを自覚して行為するということです。皿洗いや掃除、「どの仕事もそれを片づけてしまうためにやってはいけない」とティクナットハンはいいます。「仕事がマインドフルに行われるなら、それがやっかいなものだという感じは間もなく消えるだろう」と書かれています。

 

このことに思いを馳せると、いつも頭に浮かぶのがミヒャエル・エンデの「モモ」です。2つあります。1つはベッポ爺さんの次の言葉です。

 

ベッポ なあモモ、とっても長い道路を掃除することがあるんだ。おっそろしく長くて、これじゃとても無理だ、こう思ってしまう。そこでせかせかと働きだす。だけどどんなにスピードをあげても残りの道路はちっともへっていない。そこでもっとすごい勢いで働きまくる。そして、しまいには息がきれて動けなくなってしまう。こういうやりかたはいかんのだ。

モモ (うなずく)

ベッポ いちどに道路全部のことを考えてはいかん。次の一歩のことだけ。次のひと息のことだけ。次のひと掃きのことだけを考えるんだ。ひと足、ひと息、ひと掃き。ひと足、ひと息、ひと掃き。すると、楽しくなってくる。これが大事なんだな。楽しければ、仕事がうまくはかどる。

 

もうひとつは、亀のカシオペアです。灰色の男たちは

 

灰色の男 ちくしょう、走っているのに前に進まない。 灰色の男 速度をあげればあげるほど、前に進まなくなってしまう。

 

といいます。それて対してカシオペアはこうです。

 

灰色の男たちが不思議そうにみまもる中、モモはカメに連れらてゆっくり、ゆっくり歩いていく。天上から光りが降りそそいでくる。

 

そして話は進んでこんなくだりがあります。

 

モモ カシオペア、あたしもうへとへと。お願いだからもうちょっと早く歩けない? カシオペア (甲羅が光る) モモ オソイホド、ハヤイ・・・・・・そうなの。

 

(以上「モモ」についてはhttp://www.misawa-ac.jp/drama/daihon/momo.html

より引用させていただきました)

 

これらはすべて同じことを言っています。目的地に至ろうと今の瞬間を手段に貶めることが習慣化されてしまうことで、逆に目的地に到着するのが遅れてしまう。今この瞬間にしっかりと接触することで、動きはゆっくりのように見えても、むしろ行為の質が高まり、早く進むことができるのだ、ということです。

 

ということで

 

灰色の男たちの罠から抜け出し、ゆっくり動こう

 

を今回の表題にさせていただきます。時間がなくて焦っているとき、焦っている自分に気づいて、ベッポ爺さんや亀のカシオペアを実践してみてください。