ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーを中心に、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、アドラー、ポジティブ心理学など、複雑系や脳科学的なアプローチも加味し、「生命の躍動」の探求、心理哲学的な関心について綴っています。

脳の遠隔領域が同期同調するデフォルト・モード・ネットワーク

今回は脳のデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)を取り上げたいと思います。


NHKのサイエンスZEROで2014年6月22日に

“ぼんやり”に潜む謎の脳活動

として特集さました。
https://www.youtube.com/watch?v=R2aswoQtMDI

以下にその概略をメモしました。

(以下、番組内容の抜粋あるいは要約)
後部帯状回前頭葉内側は脳が何も課題をしていない時に血流が増える領域
しかもこの二つの領域の血流を折れ線グラフにしてみると、ぴったりと言っていいほど重なるのである。
これは同期して活動しているということで、各領域が協調してある機能を果たしていると考えられている。

自分自身について何か考えている時、例えば自分は真面目な正確だろうか?
前頭葉内側が働くという→自己認識

また、私はここにいてこういうことをしている
自分を見ている自分と言ってもいい、自分のおかれた状況を把握していること
見当識

海馬が含まれている場合がある→記憶

サッカーの長谷部選手
『ひたすらボーっとしててもいいし…』

座禅を組んだり瞑想をしている時とDMNは関連していると思います。(情報通信研究機構 総括主任研究員 宮内哲氏)

何もしていない時に働くネットワーク

DMNだけではない。

領域ごとの血流変化パターンを記録し、同じパターンで変化している領域を抽出してつないで色を付けると

すると複数の色のネットワークが存在していることが分かってきたという。

さらにこれを50才未満と70歳以上に分けて解析すると50歳以下では後部帯状回前頭葉内側をつなぐ長い回路(DMN)が存在するのに対し、70歳以上ではその長い回路が無くなっている。

そして70歳以上では近くの領域とつながる線が密になっている様子がうかがえる。

加齢とともに遠くの領域と繋がりを持つ回路が影響を受けて認知機能や運動機能の低下につながるのだと考えられる。

年をとると遠いネットワークが減ってしまう。それによって判断や反応にかかる時間が遅くなる。

健常な人のデフォルト・モード・ネットワークとアルツハイマー認知症の人の原因物質(アミロイドβ)の分布はそっくりである。

2004年にアルツハイマー認知症の人特有のDMNのつながり方が明らかになった。

アルツハイマーの人は同期の領域が減っている(少ない)。脳の委縮がみられる前の軽度認知障害でもアルツハイマーの人と同じような特徴を示すことが分かった。

萎縮の前のアミロイドの沈着が始まる前から兆候があらわれていたことになる。

認知症の早期診断にDMNは活用できる(DMNの線が途切れているとその後認知症を発症する確率が高まる)ということだ。

うつ病自閉症統合失調症、慢性疼痛、ADHDともDMNは関係しているのではないかと考えられ始めている

うつ病の人はある活動をしている時にもDMNの活動が下がらない。
逆に統合失調症の人は健康な人より活動が強くなる、といった特徴が確認されている。

現在世界上で数千人規模でデータベースが作られて、すべての精神疾患別のネットワークの特徴が明らかにされつつある。

いまや1日1本ペースで論文が発表されている。(抜粋ここまで)

いかがでしたでしょうか?

DMNは、自分の性格を考えたり、自分を振り返ったりする「自己認識」の働きや、いま自分はどこにいるのか、自分のおかれている状況はどうなのかを自覚する「見当識」と関連しているとされています。

自己認識や見当識は、それがレベルアップすると、「今この瞬間」の思考や感情、衝動や感覚に気づいているマインドフルネスへと向かうのではないでしょうか(私見ですが)。

この番組の中で「坐禅を組んだり、瞑想をしている時とDMNは関連している」とコメントされているのは、おそらくそういうことでしょう。

ただ疑問もいくつかあります。

うつ病の人はある活動をしている時にもDMNの活動が下がらない。
・逆に統合失調症の人は健康な人より活動が強くなる、といった特徴が確認されている。

などは、DMNが強固であったり賦活化していることが必ずしも望ましいことではないと受け取れますので、その辺りはよく分かりません。

先日(8/14)のEテレビの白熱教室で、悲観に偏りがちな脳をやや楽観的な脳回路にシフトするために訓練によって注意バイアス(認知バイアスの一つ)を修正したり、マインドフルネスに取り組むことが効果的であるという研究結果が示されていました。

今やオックスフォード大学内にマインドフルネスセンターが設置されており、マインドフルネスは「脳の可塑性」に大きく関係していることが分かってきたとのことです。

従来のニューロ・フィードバックはα波やθ波、およびその同調といった脳波との関係でしか語られてきませんでしたが、fMRIやNIRSといった画像処理技術の進歩により一気にメインストリームに躍り出ました。血流の同期同調によって脳内のどの領域とどの領域がつながってネットワークを形成しているのか?それが認知症パーキンソン病などの中枢神経疾患とどう関係しているのかが分かる時代になったのです。すごいですね。

そしてさらにリハビリテーションの新たな方法の開発へとつながってきました。(これは私のNPOの仕事とかかわってきます。)

今後は、そうしたことも取り上げていきたいと思います。今回はこのくらいで。