ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーを中心に、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、アドラー、ポジティブ心理学など、複雑系や脳科学的なアプローチも加味し、「生命の躍動」の探求、心理哲学的な関心について綴っています。

弁証法的行動療法(DBT)

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   (出所『弁証法行動療法実践トレーニングブック』)

禅の原理、そしてマインドフルネスとアクセプタンスを全面的に取り入れた新世代の認知行動療法の一つである弁証法行動療法(dialectical behavior therapy:DBT)の概略に触れてみたいと思います。

DBTはワシントン大学のM.リネハン教授によって開発された認知行動療法の一派です。
弁証法(dialektik)という言葉は、ソクラテスが実践したことで名高い問答術、対話術を意味するギリシャ語。ある命題(テーゼ)とそれに反する命題(アンチテーゼ)を、止揚アウフヘーベン)し、統合命題(ジンテーゼ)を生み出すこと、です。

苦痛を経験している状態から脱却するために必要な「変化」をテーゼとし、変化しなければならないと考えること自体が苦痛を増幅してしまうメカニズムが働き、結果として増幅させるような行動をとってしまうため、「受容」をアンチテーゼとしてとらえ、テーゼとアンチテーゼの緊張を通してジンテーゼとしての治療的変化が起こる、というように解説されています。

ACTに共通するものがありますね。「何もしないをする」というLetting goのコンセプトを思い出しました。

それでは以下、『弁証法行動療法実践トレーニングブック』Matthew McKay, Ph.D. Jeffrey C. Wood, Psy.D. Jeffrey Brantley, M.D.〔著〕、遊佐安一郎、荒井まゆみ〔訳〕を参照して、まずは遊佐さんの書かれた前書きよりポイントを抜粋します。

DBTはとても総合的な治療法で、4つの治療的な方法を組み合わせて行われる。
①毎週1時間の個人心理療法(カウンセリング)
②毎週2時間半の、感情と上手につき合うためのDBTスキル訓練プログラム
③電話コンサルテーション
④治療チームのスーパービジョン、コンサルテーション

なかでも特に②のDBTスキル訓練プログラムは、24週1セットのプログラムで、つらさに耐える(苦悩耐性)スキル、感情調節スキル、対人関係スキルの3つのモジュールから形成されている。

どのモジュールでも最初の2回(2週間)では、マインドフルネス・スキルを学ぶ。他の3つのスキルと合わせて練習すると効果が上がるからであると説明されている。

2回のマインドフルネスのあとは、6回(6週)で各スキルを詳しく学んでいく。

そのローテーションを図示すると上図のようになる。この24週のスケジュールを2回りすると48週、約1年となる。

◆感情調整スキル
問題の中心は自分の感情がうまく働かないため。したがって、自分の感情と上手につき合うスキルを身につけることが問題の改善につながる。そのためには、自分の感情を理解して調節するスキルを学ぶことが大切。

◆対人関係スキル
感情的につらい経験をするきっかけは、対人関係がうまくいかないことと関係が大きい。感情調節がうまくいかない→感情的につらくなる→対人関係のトラブルが起きやすい→さらに感情的なつらさが悪化、という悪循環に陥る。そのため対人関係を効果的に持てるようになるためのスキルが大切。

◆苦悩耐性スキル
自分の感情に圧倒されてしまうと、しばしば行動に結びつく。例えば怒りを強く体験すると、攻撃的になったり怒鳴ったりする。不安や恐怖を強く体験するとその場から逃げ出したくなる。それらは人間に備わった自然な反応ではあるが、感情に圧倒され、調節がうまくできないと、行動も極端になり、社会生活に支障をきたす。
人はつらい状態に置かれると、それを和らげようといろいろなことをする。自殺企図や自性などの行動もとてもつらい状態に対する対処行動と考えられる。そうした行動もつらさから気がそれてつらさを軽減する効果があったりするため、そうした対処行動が繰り返されることになる。それが問題をこじらせ、一層つらい状態になる。
苦悩耐性スキルは、感情的につらくてどうしようもない状態のときに、問題をこれ以上こじらせないようその状態に耐え、他の(健全な)スキルをうまく使って状況を改善するためのスキルである。

●マインドフルネス・スキル
マインドフルネスとは、「自分自身のことや、自分の経験について価値判断したり、比較したり、批判したりせず、今、このときにおける自分の志向、感情、身体的感覚、および行動をありのままに捕えるための能力」と説明される。
マインドフルネス・スキルには、うつや不安、痛み、むちゃ食いなどに効果があり、苦悩耐性の増強やストレスマネジメント効果もある。
特にマインドフルネスの特徴である自分への価値判断(ex.「私はいつもこうだ」「ダメな人間だ」などと思うこと)をせずに気づく能力は、感情調節、対人関係、苦悩耐性の3スキルを身につけるためにも、とても役立つ。どのスキルでも、「気づく」ということはそのスキルの大切な側面である。
例えば、他人から誤解を受けてつらい気持ちになる→そのことが頭から離れず、その人や自分を価値判断してしまう→その価値判断によってさらに強い感情が出てくる→その強い感情と関係のある過去や未来のことで頭が一杯になる→感情も雪だるま式に膨れ上がり圧倒されてしまう。そのような状態のときにこそ、マインドフルネス、すなわちそのような状態を価値判断せずにありのままにとらえる能力、が大切になる。

 

上のローテーションの図と合わせみることでDBTの全体像がおよそ分かるのではないでしょうか。

次に、以下に、本書の見出しを引用します。(注、一部省略しています)

第1章 苦悩耐性スキル:基礎編
徹底的受容(radical acceptance)

注意をそらす
  自分を傷つけるような行動から注意をそらす
  楽しい活動で注意をそらす
  他の人に注目することで注意をそらす
  思考から注意をそらす
  その場を離れることで注意をそらす
  作業や雑用で注意をそらす
  数を数えて注意をそらす
  あなた自身の注意をそらす計画を立てる

自分自身をリラックスさせ、落ちつかせる
  嗅覚を用いて自分を落ちつかせる
  視覚を用いて自分を落ちつかせる
  聴覚を用いて自分を落ちつかせる
  味覚を用いて自分を落ちつかせる
  触覚を用いて自分を落ちつかせる
  リラクゼーション計画を立てる

第2章 苦悩耐性スキル:上級編
(今回は省略します)

第3章 マインドフルネス・スキル:基礎編
マインドフルネス・スキルとは何か
マインドフルネス・スキルを練習する前に
「マインドフルでない」状態の経験
なぜマインドフルネス・スキルが重要なのか
マインドフルネスの基礎を学ぶ―4つの「what」スキル
  1分間に焦点を当てる
  1つの物体に焦点を当てる
  光の帯
  内的―外的経験
  3分間の思考を記録する
  思考を和らげる
  感情の描写
  焦点のシフト
  マインドフルな呼吸
  感情に対するマインドフルな認識

第4章 マインドフルネス・スキル:上級編
(今回は省略します)

第5章 マインドフルネスのさらなる探求
(今回は省略します)

第6章 感情調節スキル:基礎編
感情とは何か
  あなたの感情とは:一次感情と二次感情
  感情はどのように動くのか
  感情調節スキルとは
自分の感情に気づき、ありのままに受け容れる
  ワークシート
  感情の記録
より健康的な感情に向けて進むために
感情と行動
  自傷行動
  他の人々に与える強い影響
健康に関する事柄と圧倒されるような感情との関係
  食べ物
  過食と拒食
  薬物とアルコール
  身体的運動
  睡眠
  病気と身体の痛み
  睡眠衛生ガイド
  肉体的緊張とストレス
    練習 自分を傷つけるような行動の認識
価値判断せずに自分自身を観察する
認知的に、より健康的に対処する
    練習 思考と感情を和らげる
  コーピング思考を用いる
  思考と感情のバランス
肯定的な感情を高める

第7章 感情調節スキル:上級編
(今回は省略します)
第8章 対人関係スキル:基礎編
マインドフルな注意
受容的行動と攻撃的行動
「私の欲求と彼らの欲求」の割合
「私の欲求と私の義務」の割合
対人関係スキルの構築
  主要な対人関係スキル
      練習 自分の対人的価値観を見極める
  対人関係スキルの使用を妨げるもの
    かつての習慣―攻撃的な性質のもの
    かつての習慣―受動的な性質のもの
    圧倒されるような感情
      練習 警告的な感情と行動
    自分の要求を見極めることができない
    恐れ
      練習 リスクの評価/リスクの計画
    好ましくない関係
    障害となりうる信念
    
第9章 対人関係スキル:上級編
(今回は省略します)

終章 スキルの実践にあたって
感情的な健康のための日常の練習

 

目次は以上です。今回はまだ勉強を始めたばかりなので私見は書きません。後日、気づいた点や参考になった点について書いてみたいと思います。