ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーにはじまり、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、そして近年ブームのアドラーまで、脳科学的なアプローチも加味し、心理哲学的な関心について綴っています。

複雑系とは?散逸構造と自己組織化、創発と相転移

複雑系とは何か?ネット検索してみると出てくるのはこういう解説だ。

多くの要素からなり、部分が全体に、全体が部分に影響しあって複雑に振る舞う系。従来の要素還元による分析では捉とらえることが困難な生命・気象・経済などの現象に見られる。高精度の測定技術、カオス・フラクタルなどの新概念の導入、コンピューターの活用などによって新しい研究対象となりつつある。 (大辞林第三版)

数多くの要素で構成され、それぞれの要素が相互かつ複雑に絡み合った系またはシステム。脳、生命現象、生態系、気象現象のほか、人間社会そのものが挙げられる。個々の要素の振る舞いや局所的な擾乱が系全体に大きな影響を及ぼす非線形、複雑で予測不可能な振る舞いの中にも一定の秩序が形成される自己組織化といった特性をもつ。 (デジタル大辞泉

 

複雑系の哲学』を著した小林道憲氏は、「複雑系の科学はカオス理論と自己組織化理論を源泉として発展してきた」と書かれている。

 

まず、「粒子と波動の相補性の原理」を見てみよう。これは次の機会に取り上げるビッグバンをもたらしたインフレーション理論を理解するうえでも大切である。

 

粒子と波動の相補性の原理

N・ボーアの量子力学解釈における中心的概念

電子をはじめ、あらゆる素粒子は、粒子の性質ももち、同時に波の性質ももつ。粒子は場の振動であり、波動である。場の振動が一定のパターンをとったとき、それが粒子として現われてくる粒子と波は、同一の実在の相補的な両面なのである。(『複雑系の哲学』p50)

 

この「同一の実在の相補的な両面」は、このブログで何度も取り上げてきたヘキサ・キュ―ブで喩えることができそうだ。

 

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「粒子として観る」とは、本図形を2次元の平面六角形として観る見方であり、世界を区別して観る見方である(A、B、…Fは対角線で分断されたそれぞれ別の実体である)。

一方「波として観る」とは、本図形を3次元立方体として観る見方であり、それは世界を区別のない全体として観る見方を表している(A~Fは別々に分離した実体ではなく、立方体という一つの全体のある側面が映し出されているにすぎない)。

 

次に自己組織化の理論である。端的にいうなら宇宙の歴史は、自己組織化138億年の歴史なのである。

 

自己組織化理論とは(同p147)

自己組織化理論で最も重要な概念は〈相互作用〉である。無数の要素が相互作用することによって、自発的に新しい秩序が形成される。ただし、この場合、自己組織化する系は、環境に開かれた開放系であって、しかも、平衡から遠く離れた状態(動的非平衡)になければならない。
このとき、自己組織系は、環境に適応して柔軟に自分自身を作り変え、変革していく能力をもつ。と同時に、そのことによって、それは積極的に環境を形成し、創造してもいく。しかも、その創造された環境に応じて、また、その系そのものが変化してもいく。
内の中に外を入れるとともに、外の中に内を作り出すのである。このような環境と 系との相互作用の中から、新しい秩序が形成されてくる。

  

この自己組織化理論を切り拓くきっかけとなったのがイリヤ・ブリコジンの「散逸構造」だという。なんとも懐かしい。30年前に私がコンサルタント会社に転職するきっかけとなった本が何冊かあり、実はその一冊がまさにこの散逸構造などの概念を紹介した『パラダイムブック』という本であった。

  

散逸構造とは

ブリコジンはこのような平衡から遠く離れた開放系を〈散逸構造〉と呼んだ。絶えずエネルギーが流入するとともに、外部へエネルギーが消失する。要素間にフィードバックを伴った相互作用が起こり、ある段階に達すると、新しい組織が自発的に形成される。
相互作用する非平衡状態にあっては、全体の規則性から逸脱するような不安定な〈ゆらぎ〉が増幅し、ある臨界点を超えると、高次の秩序への飛躍が起き、新しい意味が創出される。この自発的秩序形成や自律的形態形成は、創発〉(emergenceという概念で、諸要素の相互作用からそれらの総和以上の新しい構造や形態が出現することである。そこでは、下位レベルの要素間相互作用から、より上位の秩序が生成する。(同p148)

  

図にするとこんなイメージだろうか?(笑。グーグル画像で検索するともっとまともな図が出てきます。)

 

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「ある段階に達すると新しい組織が自発的に形成される」ことを「相転移(そうてんい)」という。

 

相転移とは

相転移とは、水が氷になったり、水蒸気になったりするように、気体、液体、固体など温度や圧力の変化によって別の相に急激に変化することをいう。プラズマの発生、対流のパターン形成(ベナール細胞)、結晶の生成、粘菌の移動、都市の形成、技術革新など、相転移現象は、創発現象である。
自己組織化では無秩序から秩序が自動的に形成されるから、熱力学第二法則に反してエントロピーは常に減少することになる。閉鎖系の不可逆変化では熱力学第二法則に従いエントロピーは常に増大するが、開放系の非平衡状態では、エントロピーは減り、秩序が生成する。
ここでは〈ある〉ことは〈なる〉ことであり、存在は生成に還元される。(同p148-149)

  

「在る」こととは、じつは「成る」ことであり、「存在」とは、すなわち「生成」なのだという言明は、福岡伸一氏のいう「生命とは動的平衡にある流れである」に通じるものを感じさせる。

ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)でも「プロセスとしての自己」とよぶ自己観を学ぶが、自己とは固定された実体なのではなく絶えず進行し変化しているプロセスなのだという認識だ。そしてそれはあらゆる存在にも言えることなのである。

相転移もまたインフレーション理論のかなめとなるキーワードである。

 

生命の躍動(エラン・ヴィタール)とは「複雑系としてふるまう創造的進化の原動力」であると前回のブログで書いた。それとの関連でいうならば、オーガニックな生命体が発生する以前の物質段階においても、平衡から遠く離れた開放系では、相転移という創発現象を通じて自発的に秩序が生じる。相転移は、まさに「飛躍」なのである。

一定の条件を満たし、そうした自己組織化が進行している系、そこにはすでに「生命の躍動」「生の飛躍」があるといえるだろう。