ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーにはじまり、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、アドラーなど、複雑系や脳科学的なアプローチも加味し、心理哲学的な関心について綴っています。

楽観性を育むマトリックス

先日、わが子の結婚式があり、新郎の父としてあいさつする機会がありました。

 接する機会が多いほうともいえず、良い父親とは決していえない立場ではありましたが、20数年を振り返ってみて、ともあれ楽観的な性格に育ってくれたことに感謝し、過去のエピソードを交え、こう表現しました。

 

彼の性格をいうなら

一見、悲観的に見える状況にあっても、楽観的といいますか、リスクを恐れない選択をとることができる。チャレンジできるという、ことではないかと思います。

 そしてなぜそのように育ったのか、と考えますと

 それは一つには幼い頃の母親の愛情、そしてもう一つは、何といっても皆さんとの共同体感覚といいますか、仲間意識なのではないかと思います。

 心の奥底で安心感のようなものがあり、「たぶん何とかなるだろう」というような感覚をもっているのだと思います。

 

と話しました。

 

 ポジティブ心理学では、この「楽観的であること」は、ハピネスを継続するための12の「意図的な行動」の一つであるとされています。

 カリフォルニア大心理学教授ソニア・リュボミアスキーの著書THE HOW of HAPPINESS(邦訳:『幸せがずっと続く12の行動習慣』)によると、幸福を決定するのは、遺伝(Genetic Tendencies)が50%を占めるものの、環境は10%にすぎず、残りの40%は「意図的な行動(Intentional Activities)」であると書かれています。

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「環境」要因が幸福を決定するうえで10%を占めるに過ぎないとは、意外に感じる人が多いのではないでしょうか。例えば、経済的に裕福であるかどうか、学歴がすばらしいとか、就職した会社が有名企業であるなど、およそ多くの人が「そうであれば幸せなのに・・・」と思っている状況の多くが、ほとんどハピネスを決定づけるものではない、というのが多くの調査研究に基づいた結論であると。

なぜそうなのかというと「快楽順応」(一時的に幸福感を感じても次第にそれに慣れてしまいやがて幸福感を感じられなくなること)があるからだと説明されています。

 

では何がハピネスを決定するのでしょうか。遺伝が50%とされていますが、これは自分ではコントロールできません。コントロールしうる50%のうちの8割を占めるもの、それは「意図的な行動」であるといいます。この「意図的な行動」については、Internal State of Mind(内面的なマインドの状態)と表示されている資料もあり、行動とマインドの状態が同じように扱われていること違和感が感じられましたが、その項目に目を通すと納得できました。

 

ざっと次のような12項目が挙げられています。

 Practicing Gratitude and Positivity Thinking: Learn how to express gratitude(1.感謝する), cultivate optimism(2.楽観性を育む), and avoid overthinking and social comparison(3.考えすぎない、他人と比較しない)

Investing in Social Connections: Learn how to practice acts of kindness(4.親切にする) and nurture social relationships(5.人間関係を育てる)

Managing Stress, Hardship and Trauma: Learn how to forgive (6.許し)and develop strategies for coping(7.コーピング・ストラテジー)

Living in the Present: Lean how to increase flow experiences(8.フロー体験) and savor life’s joys(9.人生の喜びを味わう)

Committing to Your Goals(10.目標へのコミット): Learn six benefits of committed goal pursuit and the types of goals you should pursue

Taking Care of Your Body and Spirit(11.内面のケア): Learn about practicing mediation, getting physical activity (12.瞑想と運動)and the power of acting like a happy person.

 

なかなか興味深い項目が並んでいます。 行動がマインドの状態を改善するもの、マインドの状態が行動を促すもの、マインドと行動の相互連関ですね。

自分がどのような意図的な行動(1~12)と親和性があるかをテストできるチェックリストや、ハピネス度を測定できる質問票などもついていました。

 

余談ですが、日立の矢野和男氏は著書「データの見えざる手~ウェアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則~」のなかで名札型ウェアラブルセンサによって職場のハピネス度(例えばフロー状態)と身体運動(例えば身体が継続的に速く動くこと)の相関関係を明らかにし職場の生産性を上げる戦略を構築しています。このことはまた別の機会に取り上げたいと思います。

 

話を元に戻すと、このハピネス度を上げるための12項目の2番目が楽観性なのです。

 

では楽観性は、どのように育まれるのでしょうか?

「楽観的であること」には、その背景が大きく影響するのではないか。

楽観性をカルティベイトする土壌があるはずです。・・・

 

それは、マトリックスによって育まれるのではないか、と直感しました。

 

2017年6月10日のブログで取り上げた吉福伸逸氏のいうマトリックスです。

nagaalert.hatenablog.com

マトリックスは成長とともに移行していきます。胎児のときは文字通り子宮がマトリックスです。幼児期では母親そのもの、幼少期には家庭(親戚や近隣含む)がマトリックスとなり、思春期以降は友人グループや部活サークルがその役割を担うというように移行していきます。この思春期以降のマトリックスは不安定なものとなりやすいため、アドラー心理学でいう「共同体感覚」がしっかりと形成されることが大切です。

 

こうした一連のプロセスがそれなりに順風であれば、一見悲観的に見える状況に陥っても、心の奥底でたぶん何とかなるだろう、といくらか楽観的に感じていられ、それがリスクを恐れない、チャレンジングな行動を支える基盤、グラウンドになるのではないでしょうか。

 そのように感じたからこそ、「共同体感覚」という言葉が、あいさつの時に自然に出てしまったのだと思います。

 

楽観性はハピネスを形成するひとつの重要な宝です。

あなたが、概ね楽観的な性格であるなら、貴重な宝物を手にしているのだと思って喜び、感謝しましょう。

 

思春期以降にしっかりと共同体感覚を感じられるマトリックスをもつこと、それは楽観性を育むうえで、きっと大切な土壌になるのだと思います。