ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーを中心に、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、アドラー、ポジティブ心理学など、複雑系や脳科学的なアプローチも加味し、「生命の躍動」の探求、心理哲学的な関心について綴っています。

追いつめて服従させる「レッド組織」

(出典:フレデリック・ラルー著『ティール組織』)

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日大アメフト選手の記者会見、その後、日大の監督とコーチの記者会見を見ていて、森加計問題に引き続き、また出た、エルサレムアイヒマン現象!と思いました。そしてさらに、ああ分かった、この組織(日大アメフト部)には、「レッド」の価値観(RED−Power Worldview)が息づいているのだ、と。

 

選手は練習からはずされ、選ばれていた日本代表も辞退するよう命令され、当日の試合もスタメン落ち、するという形で、精神的に追い詰められていました(『クローズアップ現代』での日大アメフト部OBの話によると、このような追いつめ方は当該監督の常套手段だといいます)。

そこで関西学院大の司令塔であるQBをつぶせば出場させてやると言われ、悪質タックルを実行するに及びました。

監督とコーチは重大な反則行為を、チームとして指示したのです。

コーチは記者会見で、選手に変わってほしかった、闘争心を出してほしかった、と何度も言いました。

選手に成長してほしかった、などとコーチは言っていましたが、それは「成長」ではなく発達や倫理の段階をむしろ「落ちる」ことだったのだと私には思われました。

 

RED−Power Worldview 「レッド‐力の世界観」については2009年8月22日のブログでウィルバーのインテグラル理論より紹介させていただきました。

発達とは人類の進化を辿ること - ウィルバー哲学に思う

 

この価値観が、最近興味深く読み進めている『ティール組織』(フレデリック・ラルー著)で、発達段階の下から3番目の組織内価値観として次のように解説されています(個人の価値観の発達段階や組織(集団)の進化の段階を7つの色で表現する。ちなみに本書が進化型として取り上げる「ティール」は「レッド」よりも4段階上の第7のステージです)。

 

(『ティール』組織P32より引用)

衝動型〔レッド〕組織

この組織は、まず強力な上下関係が原始的な王国へと成長する過程で形成された、小規模で支配的な集団という形で現れた。現代ではギャングやマフィアなどにまだまだ見られる組織である。今日のレッド組織は、現代風のツールやアイデアを取り入れ、武器や情報技術を駆使して組織的犯罪を考案している。しかし、その組織の構造と慣行は、たいていレッド・パラダイムの中で形成されている。

 レッド組織の決定的な特徴とは何だろうか?対人関係に力を行使し続けることであり、それが人と人を結びつける要素になっているという点だ。オオカミの群れはよい比喩だ。オオカミの群れでは、「アルファ・ウルフ」呼ばれるトップが、自らの地位を維持するために必要に応じて力を使う。これと同じく、レッド組織の長がその地位にとどまるためには、圧倒的な力を誇示し、他の構成員を無理やり従わせなければならない。一瞬でも隙を見せると、他のだれかに寝首をかかれてしまう。トップは少しでも安定を得ようと、自分の周りを(他のメンバーよりはたいてい忠実な)家族〔ファミリー〕で固め、獲物を分け与えて忠誠を買う。トップの側近メンバーも自分の配下の面倒を見て彼らを統率する。

 全体としては、正式な階層も役職も存在しない。・・・トップはいつも残虐性を示して罰を与え続けねばならない。組織の崩壊を防ぐのは恐怖と服従だけだからだ。・・・

 

 

これはセルマンの対人関係能力の発達段階のレベル1に対応します。

Interpersonal知性と、セルマンの役割取得能力 - ウィルバー哲学に思う

発達段階レベル0では、自己中心的な対人関係しか取れないため、自分を押し通す方(他社変容志向)は「暴力」に訴え、自分を曲げる方(自己変容志向)は「逃げる」ことになります。レベル1に発達すると、自分と相手の違いは区別できるようになるので、自分を通す方は「命令や脅し」という方略を取ります。それに対し自分を曲げるタイプは「従う(服従)、諦める、助けを待つ」という対応を取ります。

 

監督は人事権を握ることでポジション・パワーを発揮してコーチにハラスメントを行うことが可能になりました。コーチの約半数は日本一のマンモス大学である日大の職員だといいます。コーチにプレッシャーをかけて人事権を背景に絶対服従の関係を確立したのです。

選手に対しても日大OBネットワークを駆使し卒業後の進路に対して大きな影響力を行使するといいます。

選手はアメフト選手として積み重ねてきた将来の夢を諦めるか、監督コーチに従うかの厳しい選択を迫られることになったのです。

 

一昨日の『クローズアップ現代』によると

前監督時代からのスパルタ式指導法、それで70年~80年代は日本一になったが、90年代になり選手の価値観も変化して求心力低下。内田監督に代わったがスパルタ式、昭和の指導法は変えず、求心力を大学の人事権を握るという方法で獲得した。

コーチでも選手の前で殴る(コーチも半分が職員であり人事権のある監督に逆らえない構造)。

コーチも選手も監督には絶対服従(卒業後の人事権まで握ることによる)。

まじめで、有望な学生がターゲットで、まず試合や練習から外す、精神的に追い詰められ、自分にどこか悪いところがあったのではないか?と考えさせ、そこで変われ!もっと成長するためだなどと言って、そして服従させ、ラフプレーを実行させる。

などなど・・・。

 

人を脅して言うことを聞かせようというレッドの組織論、これが日大アメフト部には息づいているのだと思われます。

 

しかし今回考察してみて分かったことは、アンバー組織であれ、オレンジ組織であれ、大なり小なり、私たちが嫌な思いをした時には、そのような立場を利用した脅迫めいた空気が、局所的あるいは断片的にかもしれませんが、漂っているのではないでしょうか。

 

レッドの価値観は、今もハラスメント(パワハラ、セクハラを含むモラル・ハラスメント)の形で、さまざまなところでひそかに息づいているのです。

 

モラル・ハラスメントについてはまた別の機会に取り上げたいと思います。