ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーを中心に、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、アドラー、ポジティブ心理学など、複雑系や脳科学的なアプローチも加味し、「生命の躍動」の探求、心理哲学的な関心について綴っています。

テロメアを育む!

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テロメアを育む4象限アプローチ

 

2019年、新年明けましておめでとうございます。

 

今年の元日の記事のタイトルは『テロメアを育む!』です。

ノーベル医学生理学賞受賞者(2009)のエリザベス・ブラックバーン博士が、共同研究者で健康心理学者のエリッサ・エペルと共著で書いた『テロメア・エフェクト』(NHK出版)を、昨年の秋口から読む機会に恵まれ、その包括的なアプローチに感動し、「これだ!」と膝を打ちました。

 

クローズアップ現代でも一昨年に放送されたことから、耳にすることの多くなった単語「テロメア」ですが、私たちの細胞の中にある染色体の末端部分にあるDNAを保護するタンパク質でできた鞘のような部分にテロメアはあります。ヒトの通常の細胞が細胞死するまでに分裂できる回数は有限です。細胞が分裂を繰り返すたびに、このテロメアは短くなっていき、やがて分裂は止まりその細胞は再生されなくなります。テロメアの長さ(telomere length テロメア長)が、再生の回数を左右することから「命の回数券」などと呼ばれています。

 

このことからテロメアは私たちの健康寿命(寿命から要介護期間を引いた年齢)を伸ばすためのキーワードとして、「炎症加齢(インフラメイジング)」や「ミトコンドリア」に並び、あるいはそれらの機序とも関連して、近年注目されるようになりました。

 

医学的生理学的な詳細はいくらでも専門的な記事を検索できますので他に譲るとして、この『テロメア・エフェクト』のすばらしい包括的アプローチを分かりやすく人に伝えるため、4象限マトリクス(上図)にまとめてみました。

テロメア長を伸ばす、維持することを「テロメアを育む」と表現して中央に表示し、その目的に対して、4つの角度からのアプローチがあることを図示しています。

 

いつものように右上象限は個人的外面的アプローチを表わしますので、「体を整える」と表現しました。

 

この象限に並ぶ項目の一つ目は「運動」です。

運動をする人のテロメアはしない人に比べて長いといいます。左上象限「心を整える」のストレスの項目と関係しますが、定期的な運動によってストレスホルモンであるコルチゾールの産生を抑制します。体重管理の面からも「適度な運動」が大切です。具体的にいうと内臓脂肪を燃焼させる有酸素運動とインターバル・トレーニングです。アスリートの世界で従来疲労物質としてネガティブにとらえられていた乳酸が、実はミトコンドリアの増大に関係していることが分かり、乳酸閾値まで負荷を上げるトレーニングの意義も聞かれるようになりました。45分以上の有酸素運動を週3回以上しましょう!そのためにウォーキングしましょう、ゆっくりでいいからジョギングしてみてはどうでしょうか?などと誰でもできる適度な運動が推奨されています。

 

私は、独りでするウォーキングやジョギングではなく、左下象限(集団の内面)への波及も考慮して、近年人気急上昇(?)の卓球を昨年10月から再開しました。本格的な練習は中高校生以来ですから約40年ぶりとなります。2時間練習すると、大量の汗をかき、翌日はきき腕と下半身が筋肉痛となります。

一般的に最大心拍数は「220-年齢」で計算されるため57歳の私は163bpmであり、その50~70%である82~114bpmの心拍数にまで上がるような運動が脂肪を燃焼する有酸素運動となります。しかし有酸素運動だけだと、脂肪燃焼を開始するまでに約30分かかると言われています。それでは開始から30分は脂肪燃焼の点では意味がないことになってしまいます。しかしやや高強度のインターバル・トレーニングとして、はじめに30秒ほど小走りのような負荷の高い運動をする、次にスローダウンし脈を整える、また負荷を上げる、スローダウンする…ということを繰り返せば、5分で脂肪燃焼が開始します。汗が出てきたら有酸素運動に入ったというサインなのだそうです。またこうしたインターバル・トレーニングはエネルギー枯渇状態を作り出すことでミトコンドリアを増やす働きがあります(太田成男 日本医科大教授)。

 卓球はフォアハンド、バックショート、ツッツキといった基礎練習は有酸素運動で、ゲームさながらのオールラウンドは負荷の高い無酸素運動と負荷が低めの有酸素運動が繰り返される競技なので、インターバル・トレーニングと有酸素運動を合わせもつスポーツであるといえるでしょう。

 

二つ目に大切なのは、やはり「睡眠」です。質の悪い睡眠、睡眠負債睡眠障害などはみな、テロメアの短縮と相関があるといいます。私もスマート・リストバンドを利用して睡眠状態を計測していますが、まずは毎日しっかりと7時間以上の睡眠時間をとることが大切です。平日は5時間しか眠れないけど、休みの日に10時間寝て「寝だめする」と言う人がいますが、睡眠負債はそれでは解消されない(返済されない)ことが分かっています。睡眠が足りないと認知症の原因物質の一つであるアミロイドβの除去が滞ることで、睡眠負債認知症のリスクを高めるということも明らかになっています。

それから睡眠の質も大切です。年を重ねると眠りが浅くなりがちですが、深い眠りが連続するようトイレにおきる回数を減らす、そのために就寝前3時間は飲食を控えるなどの工夫をせねばなりません。レム睡眠は、コルチゾール分泌抑制やつらい記憶をいやしたりニューロン間の新しいつながりを作るなど大切な機能を果たしているので、睡眠時間全体の10%~30%の構成になることが望ましいとされています。いびきの激しい人は睡眠時無呼吸のリスクが高く、毎日のように昼間に眠気が襲ってきたり、寝汗や、朝の目覚め時にぐったりとした疲労感があるようなら診察を受けた方が良いとされています。

本書では、左上象限(個人の内面)の項目と関連しますが、「マインドフルネス不眠療法(MBTI)」を実践することで6か月間で80%の人に睡眠の改善が見られたことなどが紹介されています。

 

この象限の3つ目は「体重管理とバランス食」です。

メタボリック・シンドロームについて、日本では腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上が第一の条件で、高血圧、高血糖、脂質異常のうち2つが基準値をオーバーしていることとされていますが、この『テロメア・エフェクト』の中では、腹囲は絶対値よりもウェストとヒップの比が重要でW/H比(%)が100%以下であること、とされています。

ダイエットは食事を減らすカロリー制限だけで達成しようとするのはよくありません。心筋梗塞脳卒中、がん、糖尿病につながる内臓脂肪を減らすことが肝要で、食事を減らすだけでは筋肉がやせることにつながると言います。筋肉のやせ細りはサルコペニアといって、フレイル(介護状態前の虚弱状態)の原因になりますので、地中海食や日本食(大豆、海藻、魚、乳製品、野菜)を意識したバランス食と運動を組み合わせることが大切です。

青魚やアマニ油に含まれるオメガ3脂肪酸テロメアの急速な短縮を防ぐと書かれています。また加齢とともに増加する「ホモシステイン」という物質は炎症と相関があり、心血管や認知症との遠因となる、葉酸塩やビタミンB12をとることで改善する、とされています。またホモシステインの増加は認知症の原因になるとも言われています。

 

それから見逃してはいけないのが「インスリン抵抗性」です。これも認知症の原因としても近年注目が集まっています。

血糖値が高くなり過ぎないように分泌されるのがインスリンです。血糖値が正常の範囲内なら問題ないと考えるのが普通ですが、一方でインスリンが効かなくなってきているというリスクがあります。血糖値を下げるためにより多くのインスリンを分泌する必要があるのです。これは血液検査でインスリン血中濃度を調べれば分かります。血糖値は基準内でもインスリンが基準値より高ければ、インスリン抵抗性が高まっている(効きが悪くなっている)証拠です。そして血糖値を下げるためにより多くのインスリンが血液中に入っていきますが、血糖値が下がった後は、速やかに過剰なインスリンが分解される必要があります。その分解酵素IDEと言いますが、実はこのインスリン分解酵素IDE認知症の原因タンパクの一つであるアミロイドβを分解してくれる酵素でもあります。IDEインスリンの分解に手古摺っているとアミロイドβの分解にまで手が回りません。こうしてインスリン抵抗性が高まることは、認知症へと繋がっていく(デール・プレデセンThe End of Alzheimer’s)のです。

 

予防するには砂糖の量をカットすることが最重要ですが、砂糖渇望症と上手に付き合うための方法の一つとして『テロメア・エフェクト』ではマインドフル・イーティングに触れています。プログラムの実践で一年後に血糖値が下がることが確認されたマインドフルネス食事認識トレーニング等が紹介されています。

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 右上象限だけでいつのまにかこんなに文字数を費やしてしまいました。(;^_^A

 

左上象限(個人の内面)「心を整える」

右下象限(集団の外面)「環境を整える」

左下象限(集団の内面)「人間関係を整える」

については、また日を改めて書きたいと思います。

テロメアを意識的に育む」一年にしたいと思います。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。m(__)m