ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーにはじまり、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、そして近年ブームのアドラーまで、脳科学的なアプローチも加味し、心理哲学的な関心について綴っています。

注意で脳は変えられる(注意と可塑性の関係)

『脳を変える心』(シャロン・ベグリー著 茂木健一郎訳)は、2004年にダライラマ14世のもとに脳神経学者が集い、心と脳についての対話を行った記録ですが、脳の可塑性、神経可塑性について詳しく書かれています。

「可塑性(かそせい)」とは、固体に外力を加えて変形させ、力を取り去ってももとに戻らない性質のことをいいます。脳の可塑性とは「発達段階の神経系が環境に応じて最適の処理システムを作り上げるために、よく使われるニューロンの回路の処理効率を高め、使われない回路の効率を下げるという現象」のことであり「発達期の脳において顕著にこの性質が観察される」などと一般に説明されています。

しかしこの本では、「成体の脳でも可塑性があること」「純粋な心理活動によって脳に変化が起こること」などが明らかにされています。

一つ分かりやすい例をP232から紹介します。

(以下引用)
注意は、偶然にも、神経可塑性に不可欠のものでもある。それをもっとも劇的に示したのは、マイケル・マーゼニックのサルを用いた実験だった。チームは六週間、毎日100分ずつサルにヘッドホンで音を聞かせ、同時に装置を使って指をタップした。数匹のサルに、指に感じるリズムが変化したことを教えた場合にジュースを一口与えて、指の感覚に意識を向けるようにさせた。このグループのサルは、必然的に音には意識を向けなくなる。別のグループのサルには、音が変わったことを教えた場合にジュースを与えて音に意識を向けさせ、6週間後に両グループの脳の状態を比較した。意識を向けるものが耳に聞こえるものか指に感じるものかというトレーニング内容に違いはあったが、すべてのサルに与えられた物理的経験は、ヘッドホンから流れる音もタップする刺激もまったく同じだ。個体間に違いが生じたとすれば、唯一の要因は注意の対象の違いということになる。
 通常、皮膚の特定の場所が急に異常な量の刺激を受けるようになると、体性感覚野の対応部分が拡大する。

結果は、指タップ→ジュースのサルは体性感覚野が拡大し、音変化→ジュースのサルは聴覚野が拡大した。

すべてのサルは音と指タップという刺激を受けたにもかかわらず、指タップに注意を向けない(指タップの変化を見つけてもジュースがもらえない)サルでは体性感覚野は拡大せず、音変化に注意を向けない(音の変化を見つけてもジュースがもらえない)サルは聴覚野が拡大しなかった。(引用ここまで)

すなわち、外的刺激は同じでも注意をどこにどう向けたかによって、脳の構造を変えることができるということです。

注意の用い方が脳に変化をもたらすのです、驚きですね。

・・・

では私なら、と考えました。

いったい何に注意を向けようか?

日ごろ意識しておくべきは何だろうか?

そして、スペース、サイレンス、空白、背景というところ、すなわち

「何か」ではなく、むしろ「何でもないところ」

に意識を向けたいと思いました。

空間的な視覚領域では物理的なモノよりも、それが置かれることを可能にしている空間。「間」と言ってもいいでしょう。

音声による聴覚領域では、音と音の間の沈黙、音楽でもそのリズムを可能にしている「間」、お笑いでもそれを効果的にしている「間」というものに注目したいと思います。

読み物では文字の行間の空白に意識を馳せます。

内面では、思考や感情、感覚、知覚が立ち上る背景の方にフォーカスするのです。

・・・

この理由は2011年6月22日の『間にフォーカスする』というブログに書いていますが、ニューロフィードバックの大御所であるフェーミ博士が発見した「対象なき心象への注目(Objectless imagery)」が脳のα波の同調を著しく促進するという知見に基づいています。

http://blog.zaq.ne.jp/nagamasa/article/177/

(この辺で今回は書き終えるつもりだったのですが・・・)

つい最近、ある脳科学の専門家から脳のデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)という言葉を教わりました。文字を読む、話を聞くといった特定の活動を脳がしていない時に、むしろ活発に活動している脳の領域(代表的なのは後部帯状回前頭葉内側)があり、それは離れた場所なのに連携して活動しつながっているようだといいます。

いくつか調べていくうちに私なりにふと思ったことは、フェーミ博士の言うObjectless imageryが、このDMNに大いに関係しているのではないかということです。

α波の同調と、fMRI(機能的MRI)やNIRS(近赤外線分光法)で測定されるDMNの賦活化の同期は、脳の同じ現象を表しているのではないか、と思ったのです。

このDMNについては、次回書きます。

次の予告編が無駄に長くなってしまいましたが、ともかく今回は、

「注意の用い方で、脳の構造や回路は変えられる」

「脳の可塑性にとって大切なのはアテンションである」

ということをひとつ押さえておきたいと思います。