ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーを中心に、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、アドラー、ポジティブ心理学など、複雑系や脳科学的なアプローチも加味し、「生命の躍動」の探求、心理哲学的な関心について綴っています。

オレンジの種、芽生え、開花、結実

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昨年から若い方の進路について相談を受ける機会などが続いたことが背景にあり、「そうか、彼らは専門性が確立できていないのが問題なのだ!」と思い至った。そして先日からこの着想を説明すべくあれこれ考えていた。

 

ここでいう「専門性を確立する」とはどういうことか?

相談内容の文脈から定義するなら

それで食べていけるような専門的知識やスキルを身につけられれば、それは「専門性を確立した」と言える。要は、彼らはまだ社会で戦う武器を持っていないのだ。

 

単に大学や専門学校を出て新卒として就職しただけではなく、例えば新部門に抜擢されたり、栄転・昇進する場合に、その専門性により評価され登用されることに繋がるような専門能力である。あるいは不運にもその組織で評価されず転職を決意したとしても、雇用市場ではしっかり評価され、職種や待遇面で有利なポストに就くことができる、そんな専門能力を身につけているか? 答えはおそらくNoだろう。

 

このような専門性はインテグラル理論でいうオレンジの段階と強く関連していると以前から思っていた。

オレンジ段階は「合理的/達成的」段階であり、マズロー欲求段階の第4レベル「自我/自尊心の欲求」に対応する。ピアジェの認知段階では形式操作的レベルの前期に該当し平均的には13~14歳頃に出現するとされている。(cf.『インテグラル心理学』)

 

しかしオレンジの論理的/後慣習的な価値観が内面に出現することと、それを自他ともに認める形で外に体現することは本質的に大きく異なる。出現したとしても体現できていない人は非常に多い。そこには同レベルの「意志の力」(Will Power)が必要となるからである。

 

合理的な思考ができる地点と、そうした価値観のもとにあるべき姿を、しっかり意志をもって達成できる地点とは、オレンジという道のりのステップが異なる。

 

冒頭の進路に迷う若者についても、論理的思考は身についているものの、「達成」への覚悟ができているか?あるいは達成に向けたプランをもち具体化のプログラムを実践しているか?となると疑問符が付いてしまう。

 

具体的に考えるため、自分を振り返ってみた。すると種まき→芽生え→開花→結実というまさに果物(オレンジ)の成長になぞらえた4つのステップで整理できることに気づき、面白いと感じた。(→これがブログに載せようと思った理由)

 

まず私は小学3年生の担任のI先生を第一の恩師と仰ぎ今になって大いに感謝しているが、そのI先生の型破りな授業に大きくインスパイアーされた。振り返ってみるとそれがオレンジの「種を蒔かれた」ということだと思う。

 

そしてそのオレンジの種は中学2年~3年生にかけて芽生える。特に加藤諦三氏の本(タイトルは残念ながら思い出せないが多分2冊読んだ)に感化され「こういう風に自分も生きたい」と思い入り、はじめて自覚をもって目標意識と達成意欲のもとに受験勉強に励んだ。

そして大きな達成感を得た。これがはっきりとしたオレンジの「芽生え」の時期だった。(Will Powerが大きく関与した)

 

では開花したのはいつの時期なのだろうか?

それは大学卒業後に就職した地方銀行でその仕事のあり方に疑問を感じ、本来自分のやりたかったはずのことに最も近い国家資格である中小企業診断士を目指して通信教育を受け、一次試験に合格した。25歳の時だ。上司からは「資格の勉強をすることは(仕事からの)逃げだ」とか言われ、批判されることもあったが、営業でトップの成績を出しながら通勤時間と休日の時間を学習にあてた。

人事部長の退職慰留を受けたが結果的にはコンサル会社に転職を決心した。銀行の法人営業でも役立つ専門知識のベースが身についたので残っていたとしても大きく道は開けたと思う。(私の転職後、その銀行では診断士の合格者に10万円の報奨金を出すようになった〈笑〉)

この時期がオレンジの「開花」であったと思われる。(後慣習的倫理観への移行期)

 

では結実期はいつなのか?

「結実」というからには、その専門性による収入の確保と社会的地位・役割が両立されることが要件といえよう。

コンサル会社に入ってから経理部/経営管理部に所属し上場準備業務に携わった。その間に二次試験に合格し、28歳の春に経済産業省登録され中小企業診断士と名刺に入れた。そこから財務分析に定評のある経営コンサルタントとしてクライアントの中長期経営計画策定などを中心にチームを率いコンサルの最前線で仕事をした。これが第一のオレンジ結実期といえるだろう。(もはやオレンジを超えて欲求段階ではマズローの第5「自己実現」欲求が原動力に)

 

第二の結実期は、20年前に独立して会社を設立して以来、現在も続いている。独立後10年間はコンサルタント的な事業がメインで、中小企業診断士の資格とコンサルタントとしてのキャリアが大いに役立った。そして後半の10年間はコンサルタント事業よりも、不動産投資、再生可能エネルギー発電売電事業といった投資事業がメインとなった。これは長年にわたって培った投資採算を見る能力に負うところが大きい。そしてこのブログでも何回か書いてきた小児がん支援NPOの経営にも20年間かかわっている(こちらはグリーン段階の結実でもあり、このことは別の稿で詳述する)。

専門知識とスキルそして経験を活用して「リスクを取る」(Risk Taking)ことでリターンを得る。その原資があってこそNPOも安定して運営できる。そうした形で専門性を「結実」させたのである。

 

話は戻って...したがって冒頭の彼らが「専門性を確立する」ためには、オレンジの道のりの、どのステップでとどまっているかを判別し、次のステップへといざなうことだと思う。

 

彼らのオレンジはいまだ開花していないように見えるので、一歩下がってオレンジがどのように芽生えているか?場合によっては、どんなオレンジの種が播かれているか?を探ることになるだろう。

 

そして、とどまっている地点から次の地点が、はっきりと、しかも魅力的に見えるように、Visionを描き出す(伴走者と一緒になって)ことができれば、一歩を踏みだす情熱、決意、そして勇気が湧いてくるに違いないと思う。