ウィルバー哲学に思う

「統合」の哲人ケン・ウィルバーを中心に、仏教心理学的視点を取り入れたマインドフルネス、第三世代の認知行動療法ACT、アドラー、ポジティブ心理学など、複雑系や脳科学的なアプローチも加味し、「生命の躍動」の探求、心理哲学的な関心について綴っています。

国立がんセンターでACT外来が!(生きかた「知縁」カフェ第1回のPR)

国立がんセンターに「ACT外来」ができています。これは正直驚きました。しかも保険診療です。www.ncc.go.jp

内容を以下に転載させていただきます。

ACT外来では、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)を通して、(1)がん体験に伴って生じる悩みと付き合っていく方法(マインドフルネス・スキル)を習得し、(2)自分にとって本当に大切なことに基づいて行動できるようになることを目指すものです。

がん体験はとても衝撃の大きなもので、治療後にも「再発したらどうしよう」、「もう元の生活に戻ることはできないのではないか」といった悩みを抱えている方が多くいらっしゃいます。このような悩みは、誰にでも起こりえる自然なことですが、無理に消そうとしたり、抑えつけたりすると、「底なし沼」のように増悪することが知られています。ACT外来では、悩みの「底なし沼」にはまらないようにする方法を習得し、あなたの人生をあなたらしく生きていくためのお手伝いをさせていただきます。

上記のようなことを目的に、1回50分のカウンセリングを週に1回ぐらいの頻度で行い、合計おおよそ12回受けていただくことになります。

 対象となるのは

がん治療は終了しているが、がんに関する悩み(再発に対する不安など)を感じている方 

 以下のような方は気軽にご利用くださいとあります。

・治療後の再発のことが気になって仕方ない

• 以前のような生活に戻れないのではないかと考えてしまう

•退院してからも常に緊張感がある

•これからの人生をネガティブに考えやすい

 ご担当医は精神腫瘍科の清水研先生、臨床心理士の猪口浩伸さんです。

ACT外来はがんを体験された方を対象とした新たなカウンセリング法として、実践を開始したところです。

となっています。

来週の9月17日(土)に開催します第1回生きかた「知縁」カフェの内容は以下の通りです。ご期待ください。

NHKで放送された「病の起源」をヒントに、アドラーのいう共同体感覚と、マインドフルネスの進化系で第三世代の認知行動療法と呼ばれているACTを解説し、脳科学の視点から関連するビジネスまで展望して意見交換します。

マインドフルネス・ムーブメントが日本に?

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2016年8月5日発行の精神療法~特集マインドフルネスを考える、実践する~が本日届きました。

寄稿されている先生方のうち、名前を存じている方も多く、書籍を読んだり、勉強会で取り上げたり、直接学んだりした内容もあってたいへん興味深いです。

まず、「特集にあたって」は森田療法研究所の北西憲二さん。

これによると、昨年11月8日に東京大学で行われた公開講座「日本文化と心理療法―禅やマインドフルネスとの関連に注目して」に多くの反響があったのだといいます。

そして「マインドフルネスとあるがまま」という題でも、森田療法とマインドフルネスの関係などについて書かれています。

私どもも昨年度の終盤に森田療法の勉強会を行いました。小児がんの喪失家族の方を対象としたのですが、そのテキストには北西先生の「森田療法のすべてがわかる本」を使いました。何とかしようと、もがけばもがくほど身動きができなくなる様を「繋驢桔」(けろけつ:桔(杭)につながれたロバのこと)と表現するそうで、ロバが縄で動けなくなった姿がイラストで分かりやすく書かれていたのを思い出します。
(ACTでは、流砂にはまり込んだ時にもがいてはいけない。もがくのではなく大の字になるのが良い、という話が出てきますがそれに通じるものがあります)

「不即不離」という対人関係のフローを実現する - ウィルバー哲学に思う

マインドフルネスと無心」という題で書いているのは曹洞宗国際センターの藤田一照さんです。

欧米ではmindfulness movement(マインドフルネス運動)と呼ばれるほど大きな盛り上がりを見せていること、日本にもそのうねりがようやく届いて2010年に日本マインドフルネス協会、2013年に日本マインドフルネス学会が設立されたといいます。

藤田さんはこのブログでも「青空としてのわたし」で取り上げたことのある山下良道さんと共著で「アップデートする仏教」という本を出されていて、興味深く拝読したことがあります。

青空としてのわたし - ウィルバー哲学に思う

マインドフルネスが心理療法にもたらすもの―内観療法との関係から」の稿を書かれたのは東京大学大学院臨床心理学コースの高橋美保さんです。
高橋美保さんは東大に公開講座の企画をされた方とのこと。内観療法とマインドフルネスの相違や共通点を体験にもとづいてまとめられています。
じつは私も内観療法を15年ほど前に受けた経験があります。いつも小児がん脳腫瘍全国大会でお世話になっている三木善彦先生が奈良で内観研修所をされていて、暑い夏にエアコンのない部屋で7日間泊まり込んで内観をさせていただきました。今となっては懐かしい思い出です。

マインドフルネス・ストレス低減法について書かれたのは高野山大学の井上ウィマラさんです。翻訳書「呼吸による癒し―実践ヴィパッサナー瞑想」は9年前ぐらいに読ませていただき、「気づく」とはこういうことをいうのかと、深めることができました。

呼吸を日常生活の気づきに利用する - ウィルバー哲学に思う

ACTについては、原井宏明さんが「マインドフルにみたアクセプタンス&コミットメント・セラピー」という題で述べておられますが、内容は難しそうです。

貝谷久宣さんの連載記事もあります。著書「マインドフルネス・瞑想・坐禅の脳科学と精神療法」は、神谷美恵子さんを知るきっかけになった本です。

変革体験によってもたらされるPTG - ウィルバー哲学に思う

ざっとこんな感じですが、これから読み進めて、またこのブログで紹介させていただきます。生きかた「知縁」カフェの参考書としても使っていきたいと思います。

過去との共同体感覚

6月26日に「未来との共同体感覚」について書きましたが、今回は「過去との共同体感覚」について下記のブログにアップしました。

エスビューロー事務局長のブログ: 過去との共同体感覚

同じ内容をそのままこちらのブログにも以下に掲載します。

過去との共同体感覚

 当団体は阪大病院で小児がんのため子どもを亡くした母親らが中心となって、当時の主治医らが協力する形で2000年に発足したNPO法人です。

今日は少し特別な日なので、アドラーのいう共同体感覚のうち、「過去との共同体感覚」について書いてみようと思います。

共同体感覚とは、ありのままの自分を受け入れることができ(自己受容)、ここにいてもいいと感じられ(所属感)、他者は仲間であると信頼でき(他者信頼)、自分は他の人の役に立っているという実感がもてる(貢献感)、そんな対人関係の感覚であるといえます。


ですから通常は、学級や職場あるいは近隣の地域など現在自分が所属しているコミュニティに対してもつ感覚なのですが、アドラーは未来との共同体感覚、過去との共同体感覚、さらには生きとし生けるものを超え、宇宙まで含めた共同体感覚にまで言及しています。


「未来との共同体感覚」とは、

未来との共同体感覚 - ウィルバー哲学に思う

に書かせていただいたように、NHKの朝ドラ「とと姉ちゃん」で、祖母役の大地真央さんが話した言葉がまさにそうです。


木材ってのは、いま植えたもんじゃない
40年、50年前に植えたものが育って商品になる
だから植えたときは自分の利益にならないのさ
それでも40年後に生きる人のことを思って植えるんだ
次に生きていく人のことを考えて暮らしておくれ


「次に生きていく人のことに思いを馳せられる」、これがまさに「未来との共同体感覚」でしょう。

では「過去との共同体感覚」をどのように考えればいいのでしょうか?


冒頭に触れたように当団体の原点には、阪大病院での小児がんの闘病生活がありました。二人の子どもの短かったけれども深い生があったこと。その生があったからこそ当団体が発足し、16年を経て現在に至っているのです。これまでも、そして今も、その生は当団体に、当団体の活動に、当団体の理念に、当団体のビジョンに息づいています。


その生がなければ、私たちの世界、特に当団体に関わるメンバーの見る世界はまったく違った世界になっていたでしょう。


当団体は存在していなかったでしょうし、小児がん脳腫瘍全国大会も開催されていないでしょう。そこで発信してきた数々の知見についても皆さんへの伝わり方は大きく違っていたことでしょう。


人と人との関係も変わっていたでしょう。私自身もこの活動に関わっていなかったでしょう。人生は大きく変わっていたに違いありません。


彼らの短くて小さな生は、どんなに大きい影響を与えてきたのか。いや今も与え続けているのか。そのことに思いを馳せるとき、驚くほどの縁起(仏教でいうところの)を感じざるを得ません。


縁起とは英語でdependent co-arizing という、と昔読んだ何かの本に書かれていました。「相互依存的連携生起」と訳されるそうですが、亡くなって尚、相互に関係しあい、そこに息づき、新たなものを創造し続けているのです。不思議ですね。


亡き親に対してそれを感じる人もいるでしょう。恩師にそうした感覚を感じるかもしれません。お盆には先祖にそうした思いを感じた方もおられるでしょう。


そしてその実感こそが、「過去との共同体感覚」なのではないでしょうか?


今日という特別な日に思いを寄せてこれを書き記しました。

脳科学で証明されるマインドフルネスの効果

昨日NHKで放送されたサイエンスZEROに熊野宏昭氏(東京大学博士(医学)で現在早稲田大学人間科学学術院教授、応用脳科学研究所所長)が出演し、マインドフルネスの最近の科学的な知見について解説がありました。

 

番組では、まず仕事の効率化やストレス低減、集中力向上などの効果があるとして昨今はビジネスの現場で取り入れられる動きが出ているとして日本のYahooが紹介されていました。すでに多くの方がご存知のようにグーグルやインテル、フォードなど世界の一流企業でも研修に取り入れられています。

 

次に、マインドフルネスが、うつ病や不安症、パニック障害などのストレス性の疾患への対処に役立つとしてイギリスの医療現場での適用の様子が紹介されました。

 

うつ病については再発防止に特に効果があるとしてイギリスで482人に2年間の追跡調査をし、マインドフルネスの実践者のグループと抗うつ薬の投与を継続したグループを比較、抗うつ薬投与の群よりもマインドフルネス実践群の方が、効果が上回ることが示されていました。

 

うつ以外にも特に「不安」には、非常に効果が大きいとコメントされていました。

 

注意事項としてうつ病は症状が出ているときはかえって状態が悪くなることがあるため、担当医と相談して取り入れてくださいと話されていました。

 

そして次に、マインドフルネスによる脳の変化が示されました。カーネギー・メロン大学のデビッド・フレスウェル氏は、35人に対して3日間のマインドフルネスのプログラムを実行し、リラックスだけのプログラムを受けた人たちと比較しました。

 

2週間後に脳の状態をfMRIで調べると、マインドフルネス実践者は脳の前頭前野にあるdlPFCの活動が活発になっていることが確認されました。

 

これは8月11日のブログ「生きかた知縁カフェはじめます」のコメントで私が取り上げたあのdlPFCです。慢性腰痛のある人の多くはこのdlPFCの衰えに原因があることが分かっています。(したがってdlPFCの活動を高めれば効果があることも)

 生きかた「知縁」カフェ、はじめます! - ウィルバー哲学に思う

マインドフルネス実践者ではこのdlPFCの活動が高まり、デフォルト・モード・ネットワークと一緒に動くことで、ストレスの低下につながっているのではないか、と解説されていました。

 

そのあと、マインドフルネス(瞑想)の体験ということで、女優の南沢奈央さんとサイエンスライター竹内薫さんが目をつぶって10分ほど実践しました。

①呼吸に注意を払います。

②雑念に気づき、呼吸に注意を戻します。

③注意のフォーカスを広げていきます。

④いろいろなものを同時に(五感で)感じます。

注意のフォーカスを広げていくところは、当ブログで取り上げている「フェーミ博士」のプログラムがかなり参考になるはずです。(よろしければ右のカテゴリーから参照してください)

 

そしてさらにハーバード大学のサラ・ラザー氏の「マインドフルネスによって脳の構造の変化が起こる」という研究結果が示されました。

 

毎日45分、8週間のプログラムを実践した人は海馬の灰白質が5%増大しました。これは新しい能力を身につけたときの変化に匹敵すると、サラ・ラザー氏はいいます。そして逆に扁桃体は5%減少していました。ストレスに対する過剰な反応が抑えられていることを意味しています。

 

うつ病の人は通常これとは反対に、「扁桃体の動きが過剰になり、海馬が減少する」傾向があります。マインドフルネスの実践により、これと全く反対の脳の構造変化が起こっているのです。

 

最後に慢性炎症に関わる遺伝子であるとされているRIPK2の活動が、わずか1日のマインドフルネス実践で下がるという研究結果が紹介されました。この遺伝子の活性は動脈硬化などに関係していると考えられているそうですが、プログラムを実践してわずか8時間後には大きく下がったグラフが示されていました。驚きです。

 

熊野さんが上手に「雑念」の解説をされていたのが印象的です。雑念に飲み込まれる様子を、雑念の雲に体が入ってしまうイラストで表現していました。マインドフルネスとは、この雑念の雲に気付いて外に出ることだと話されていました。マインドフルネスは集中とかリラックスとして紹介されることが多いのですが、実はこの「気付く」ことの方が大切なのです、と力説されていました。

 

まさにその通りだと私も思います。私が当ブログで「風船モデル」と呼んでいるものに大変近いと感じました。私たちは日ごろ無意識に何かを考え、いつのまにかその思考のコンテンツにどっぷりつかってしまっているのです。これは漫画でよく表現される風船のような「吹き出し」の中に頭がすっぽり入ってしまった状態です。大切なのは「おーとっと」「またいつの間にか入ってしまっていた」と気づき、吹き出しの風船から頭を外に抜くことなのです。

「無意識の回避」から「意識的な受容」へ - ウィルバー哲学に思う

風船モデル - ウィルバー哲学に思う

 

このほかにも本ブログではマインドフルネスに関連したことを相当数書いてきましたので是非参考にしてください。(これも右のカテゴリーから参照できます。)

9月17日からスタートする知縁カフェでは、マインドフルネスの研鑽法もお伝えします。教室などもたくさんできているようですが、費用もかかるようですし、教えている人がどれくらい分かっているかどうかも疑問です。十分自学できます。少しずつ体得し感覚を身につけていきましょう。それでは今日はこの辺で。

 

なぜ「他者への関心」がうつに効くのか?(知縁カフェ予告編)

先日、私どものNPOが主催した岸見一郎氏の講演会で「他者への関心(social interest)」をもつことは、「うつ」に効果があるという話が聞かれました。

なぜ、アドラー心理学でいう「他者への関心」が、「うつ」に効いたりするのでしょうか?

 

来月から始まる「知縁」カフェの予告編として、このことを脳科学や人類進化と関連付けて考えてみたいと思います。

 

脳科学の知見を踏まえて考察すると、なぜ、social interestが「うつ」に効くのか?その問の答えが浮かんできます。

 

「うつ」のメカニズムは、扁桃体の過剰な活動→副腎からのストレスホルモンの分泌過多、という流れが頻繁に起こり、慢性化することで引き起こされます。ですから扁桃体の過剰な活動を抑えることが重要なのですが、結論から言うと、「公平感」や、他者と「助け合う」ことは、扁桃体の過剰な活動を抑えるのです。

 

NHK「病の起源~うつ病」で放送されましたが、アフリカのタンザニアで狩猟採取生活を今も続けているハッザの人々を対象に、ロビン・ピーターソン医師が調査したところ、「うつ」を示す兆候は2.2でした。「うつ」と判断されるボーダーラインのその値は11.0だそうで、米国での調査値は7.7、日本では8.7といいますから、ハッザの人々の数値がいかに低いかが分かります。ハッザの人々は捕ってきた獲物を、捕れなかった人にも、狩りに参加しなかった人にも徹底して平等に分けます。狩りをするために助け合い、平等に分け合うという慣習が「うつ」の値を低くしている要因ではないか、と考えられています。

 

玉川大学脳科学研究所の春野雅彦研究員は平等と扁桃体の関係に注目し、実験を行ってきました。お金を分け合う実験で、自分が損をする場合、扁桃体の活動は大きくなります。 また意外にも、自分だけが得をする場合でも、扁桃体の活動は大きな値を示しました。 そして、互いに公平な場合だけ、ほとんど反応しないという結果が得られたのです(参照:同上番組)。

 

 

これらのことから、平等はうつ病の原因となる扁桃体を過剰に活動させないことが分かります。

 

同様の実験がアメリカ・ラトガース大学で行われています。(参照:NHK「ヒューマン、なぜ人間になれたのか」)

 

被験者二人にくじを引いてもらい、くじの片方にはRich、もう片方にはPoorと書かかれています。

Rich には参加料として80ドル渡され、Poorには30ドルが渡されます。二人の間にわざと格差が作られます。ここで追加の50ドルをRichかPoorのどちらかに渡します。このとき調べるのはRichの脳の快楽の中枢「腹側線条体」。

Richが50ドルもらい、所持金が130ドルに膨れ上がったとき、Richの「腹側線条体」は0~5段階レベルでやや上昇(1のレベル)になりました。所持金が増えたことが快楽中枢に反応しました。

ところがRichではなくPoorに50ドル渡して、ともに80ドルとなった場合(格差はなくなります)、その時のRichの「腹側線条体」の反応レベルは、なんと最高の5のレベル。きわめて強く反応しました。20人への同じ実験でも同様に強いレベルを示しました。

ただ実験の前提は「相手が目の前にいる」ことだといいます。

  

助け合い、平等に分け合うのが習わしであるハッザの人々が、強い部族の絆、アドラー心理学でいう強い共同体感覚を持っているであろうということは容易に想像がつきます。

 

そして「他者への関心」とは、アドラーが共同体感覚を英語圏に紹介した時に使った言葉です。すなわち、共同体感覚とは「他者への関心」によって育まれる感覚、「他者への関心そのもの」であるということです。

 

他者に関心をもつことは、共同体感覚を育みます。共同体感覚はハッザの人々のように、強い絆で扁桃体の過剰な活動を抑制します。仲間にサポートされているという感覚、仲間に役立っているという感覚。

 

共同体感覚尺度※というものが考えられています。共同体感覚尺度は共同体感覚を理解するヒントになります。それは「自己受容」(ありのままの自分を受け入れているか、自分が好きか)、「所属感」(ここにいてもいいと思えるか)、「他者信頼」(他者を敵ではなく仲間として信頼できるか)、そして「他者貢献」(他者に役立っていると思えるか)、です。

 

ありのままの自分を受け入れ、自分はここにいてもいいと居場所を感じられ、他者を仲間と信頼でき、自分は役立っていると実感できる。それが「共同体感覚が養われる」ということです。自己感覚が、個から脱同一化し、共同体との同一化する方向にシフトすると言い換えられるかもしれません。そうした時、扁桃体の過剰な活動は抑えられます。

 

共同体感覚を育むと扁桃体の過剰な活動を抑制できます。すなわち「他者への関心」が「うつに効く」ことは、このような脳科学的知見からも容易に察しが付くことなのです。

 

四日市市教育委員会のクラス会議の導入研究の評価に用いられた共同体感覚尺度

1)自己受容

 あなたは苦手な部分も含めて自分のことが好きですか

 なたは自分のことを大切にしていますか

2)所属感

 あなたのクラスは居心地がいいですか

 あなたはメンバーの一人であるという気持ちはありますか

 あなたはクラスのみんながいてくれてうれしいなと思いますか

3)信頼感あなたはクラスで大切にされていると思いますか

 あなたはクラスのメンバーを信頼していますか

 あなたのクラスは自分達で自分達の問題を解決しようとすることができますか

4)貢献感

 あなたは人のためにはたらくことが好きですか

 あなたはクラスのみんなのために役に立つことができると思いますか

 あなたはクラスのみんなを大切にしていると思いますか

生きかた「知縁」カフェ、はじめます!

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勉強会「生きかた知縁カフェ」第1回(9/17)を開催します。

知的好奇心が強く心理哲学的なアプローチと脳科学など最新の科学を融合させたい定年前後のシニアの方々の参加を想定していますが、「生きかた」に関心のある方ならどなたでもOKです。

NPOの審査やコンサルに長年関わってきた経験を活かし、認知症、超少子化、キラーストレス、高どまりの自殺水準、孤立とうつの蔓延など社会課題の解決に心理・哲学、脳科学を役立てるソーシャルビジネス(SB)の新しいスタイルを模索します。

単なる勉強会ではなく、異分野の知識と知恵が交流し、新しい知が生まれるような「知縁(ちえん)」のコミュニティへと発展していくことを目指します。

詳細、申込みはこちらをご覧ください。

www.kokuchpro.com

未来との共同体感覚

NHKの「100分de名著」2月の放送は、昨今ブームのアドラーが取り上げられました。解説はベストセラー「嫌われる勇気」(135万部)の著者で哲学者の岸見一郎氏です。25分(番組)×4回=100分で名著を読み解いていきますが、その第4回のテーマは「共同体感覚」でした。

 共同体感覚とは

われわれのまわりには他者がいる。そしてわれわれは他者と結びついて生きている。人間は、個人としては弱く限界があるので、一人では自分の目標を達成することができない。・・・そこで、人は弱さ、欠点、限界のために、いつも他者と結びついているのである。

 この「他者と結びついている」ということが、アドラーのいう「共同体感覚」の意味ですと岸見一郎氏はいいます。

 ドイツ語ではMitmenschlichkeit(ミットメンシュリッヒカイト)。Mitmenschen(ミットメンシェン)は仲間という言葉の原語だそうです。

すなわち、仲間としての他者と結びついている感覚が、共同体感覚です。

 戦争をはじめとするこの世の争いごとすべてが、共同体感覚の欠如によって引き起こされているといっても過言ではない、と岸見氏。

 アドラーも、「自分自身の幸福と人類の幸福のためにもっとも貢献するのは共同体感覚である」といっています。

 他者を敵として見るのではなく、他者(他民族、他国家)を仲間として見ることができるなら、人類の幸福につながるということでしょう。

 

そして共同体感覚における共同体とは

 さしあたって自分が所属する家族、学校、職場、社会、国家、人類というすべてであり、過去、現在、未来のすべての人類、さらには生きているものも、生きていないものも含めた、この宇宙全体をさしている。

 とアドラーは定義したといいます。

 人類までは理解できるような気がします。生きとし生けるものすべて、そして生きていないものすべてというカテゴリーも人類の生存基盤である生命圏(バイオスフィア)まで視野を押し広げて考えるなら理解できないことはないでしょう。

 しかし、過去と未来まで含めた共同体というものをどう考えればいいのだろうか?と考えていました。

 そして、昨日、NHKの朝ドラ「とと姉ちゃん」を見ていて、200年続いた老舗の木材商の女将で祖母役の大地真央が、主役の常子に送った最後の言葉を聞いて、思わぬところでシナプスがつながり、これか!と思いました。

木材ってのは、いま植えたもんじゃない

40年、50年前に植えたものが育って商品になる

だから植えたときは自分の利益にならないのさ

それでも40年後に生きる人のことを思って植えるんだ

次に生きていく人のことを考えて暮らしておくれ

 「次に生きていく人のことに思いを馳せられる」、これがまさに「未来との共同体感覚」です。

私は2000年ごろに再生可能エネルギーの普及浸透に関連した自治体のビジョンづくりの仕事をしていたのですが、「温暖化が進行し、2100年頃には地球の気温は数度上昇して気候が暴走、大きな問題になる」というようなことを住民の説明会で話すと、「自分たちは死んでしまってるから関係ないや」というような声が必ず聞かれました。このようにしか思わない人はまさに「未来との共同体感覚」が欠如しているのです。

原子力発電所の核のゴミの問題も同じでしょう。何万年も分解されない危険な核廃棄物でも地中深く埋めてしまえば数百年、数万年先のことはどうでもいいじゃないかと考える人は、「子々孫々の世代との共同体感覚」が欠如しているのです。

インディアンは、常に、7世代先の子孫のことを考えて自然と共に暮らしていた、という話を読んだことがあります。

 「未来との共同体感覚」とは、まだ見ぬ世代の幸福を仲間として願う気持ちなのだと思いました。

 

次回は過去との共同体感覚について考えてみたいと思います。